葉隠入門

『葉隠入門』の概要

『葉隠入門』は、三島由紀夫による評論及び随筆であり、副題には「武士道は生きてゐる」という言葉が添えられています。これは、戦中から彼が感銘を受けてきた『葉隠』の核心と魅力を解明するためのガイドの役割を果たしています。三島自身の価値観、倫理観、歴史観を交えたこの作品は、実質的な自伝としても評価されています。1967年の刊行以来、今日まで多くの読者に影響を与え、新潮文庫版を始めとした再版が行われています。

作品の背景

本書は、三島が1955年に発表した日記形式の評論『小説家の休暇』に基づいています。この時に『葉隠』に触れた内容を、さらに具体化し深めたものが『葉隠入門』であると言えるでしょう。

内容の詳細

第一章：プロローグ「葉隠」と私

三島の少年期からの『葉隠』への愛情は、彼にとって特別な存在でした。この本の中の「武士道とは、死ぬことである」というメッセージは、彼の人生の指針となり、文武両道を目指す原動力となったのです。しかし、一方で、彼は芸術や文学という『葉隠』が否定する「芸道」の道を選んだため、内面的な対立と葛藤を抱えることにもなりました。プロローグでは、禁断の書である『葉隠』がいかに三島の心に影響を及ぼしたかが、力強く語られています。

第二章：現代に生きる「葉隠」

現代の状況は『葉隠』の時代とは全く異なるものです。経済的繁栄に恵まれた今日の若者は、生への欲望を満たすことができる一方で、「死への欲望」が抑圧されてしまっています。恋愛の形態も、かつての「忍恋」という深く密やかなものでなく、現代の恋愛はしばしば表面的で短命なものとなっているため、多くの若者が「恋愛不感症」と「情熱の喪失」という矛盾に苦しんでいるのです。その中で三島は、今もなお「死」が重要なテーマであると解説し、自らの生き方に向き合う俯瞰的視点を提供しています。

第三章：「葉隠」四十八の精髄

三島は『葉隠』を「行動哲学」「恋愛哲学」「生きた哲学」という三つの視点から捉えています。「行動哲学」は、人間がどのように行動すべきか、その根拠をどこに求めるかを論じています。「恋愛哲学」では、日本文化における愛と忠義の関係を探求し、恋は忠義に結びつくとしています。また、「生きた哲学」では、日常生活の中での時間の流れとその積み重ねが、個々にとって意味あるものとなることを提唱しています。

第四章：「葉隠」の読み方

戦時中に推奨された『葉隠』は、現代においても依然として興味を持たれていますが、その理由は変化しています。現代人は、「死」を日常の一部として認識することが少なくなっており、むしろ非日常的な存在として扱っているため、『葉隠』の視点は新たな意味を持ちます。三島は、西洋の死生観と日本のそれとの違いに着目し、自然としての「死」の存在を明快に描くことで、現代の人々がどのように死と向き合うかを考察しているのです。

作品への評価と意義

『葉隠入門』は、三島由紀夫の文学における重要な位置を占めており、その中で彼の美意識や倫理観が凝縮されています。同時に、この作品は三島の思想を理解するための手引きともなっており、様々な著者から批評や考察が加えられています。特に、現代社会のニヒリズムや個人の生と死に関する探求は、今なお多くの読者に深い感銘を与えるテーマです。この作品が持つ哲学的価値は、時代を超えた普遍的な問いを投げかけています。

主要な刊行本と版

本書は多くの版が刊行されており、いずれも様々な装丁や構成により読者に届けられています。特に新潮文庫版や復刻版は、幅広い層に支持されています。三島由紀夫の世界観を深く理解したい読者には、ぜひ手に取って欲しい一冊です。

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