著作権法 (フランス)

フランス著作権法：著作者人格権を重視する大陸法の系譜と現代の課題

フランス著作権法は、文学、音楽、美術、ソフトウェアなどの著作物を保護するフランスの国内法です。その条文は、知的財産法典（CPI）の第1部に収録されています。保護の対象となる権利者は、著作物を創作した著作者本人、権利を譲渡された者（相続人を含む）、著作物の流通に貢献する著作隣接権者（歌手、放送事業者など）、そして著作権管理団体など多岐に渡ります。

フランス著作権法の歴史的影響と特徴

フランスは、著作権法の歴史において非常に大きな影響力を持っています。「著作権先進国」や「著作権の母国」と呼ばれることもあります。文化・芸術大国であるフランスは、海賊版被害を受けやすかった歴史的背景があり、今日の国際的な著作権保護水準の基礎を築いたベルヌ条約の起草を主導しました。その結果、多くの欧州大陸諸国が、フランス著作権法の概念を部分的に取り入れています。

フランス著作権法の顕著な特徴は、著作者人格権（著作者の「心」を守る権利）を包括的かつ手厚く保護している点です。これは、著作物の第三者利用に寛容的な英米法系のアメリカ合衆国やイギリスの著作権法とは対照的です。

現代のフランス著作権法

現代のフランスは、主要な国際著作権条約に加盟しており、他国と同等以上の保護水準を達成しています。EU加盟国として、EUの著作権指令に基づき、社会・技術の変化に対応した法整備を進めています。特に21世紀に入ってからのインターネットを通じた著作権侵害の急増は、フランスを含むEU諸国で度重なる法改正を促しましたが、権利保護と利用者の権利のバランス調整は依然として困難な課題です。

フランス著作権法の権利

フランス著作権法では、権利を著作者人格権と著作財産権に大別します。

著作者人格権

著作者人格権は、著作者の創作活動に対する精神的な権利であり、以下の権利が含まれます。

公表権: 著作物を公開するか否か、またどのように公開するかを決定する権利です。1957年の法改正で明文化されました。
氏名表示権: 著作物に自分の名前を表示する、または匿名・変名で発表する権利です。
尊重権: 著作物の内容が改変・削除されないように保護する権利で、他国の「同一性保持権」よりも広い概念です。パロディなど、一部例外が認められます。
修正・撤回権: 公表済みの著作物を修正または撤回する権利です。ただし、権利行使には損害賠償の問題が生じることがあります。

著作者人格権は、著作物の譲渡後や著作者の死後も、原則として永久に保護されます。

著作財産権

著作財産権は、著作者が著作物から経済的な利益を得る権利です。フランス著作権法では、以下の権利が主なものです。

複製権: 著作物を複製する権利です。デジタル複製も含まれ、翻案権も包含します。
演奏・上演権: 著作物を公衆に演奏・上演する権利です。インターネットなど、伝達手段は問いません。
* 追及権: 美術作品を売却した後も、転売されるたびに売買価格の一定割合を受け取る権利です。フランスが世界で初めて導入しました。

著作財産権は、著作者の死後70年間保護されます。

著作隣接権

著作隣接権は、著作者ではないが著作物の創造・流通に貢献した者（歌手、俳優、レコード製作者、放送事業者など）に認められる権利です。1985年の法改正で明文化され、近年はプレス通信社や新聞社にも拡大されました。

スイ・ジェネリス権（データベース権）

データベースは、その内容と構造の両方について保護されます。内容はスイ・ジェネリス権で、構造は狭義の著作権で保護されます。スイ・ジェネリス権は、データベースの作成に要した「実質的投資」を基準に保護が認められます。保護期間は15年間です。

著作物の定義と保護要件

フランス著作権法は、あらゆる精神的な著作物を保護対象としています。保護には、「創作性」と「表現性」が要件です。単なるアイディアや事実は保護されません（アイディア・表現二分論）。

応用美術や実用品デザインも、創作性と著作者の人格の反映があれば保護対象となります。コンピュータプログラムも、著作者の創作性が認められれば保護されます。

著作権侵害と救済

著作権侵害には、民事または刑事上の救済措置が設けられています。刑事罰としては、禁固刑や罰金が科せられます。民事訴訟では、損害賠償請求などができます。

インターネット上の著作権侵害

インターネット上の著作権侵害への対応として、2006年のDADVSI法、2009年のHADOPI法、そして2021年のDSM著作権指令の国内法化など、法改正が繰り返されてきました。

DSM著作権指令の国内法化では、オンラインコンテンツ共有サービス事業者に対する「アップロード・フィルター条項」が導入され、不正コンテンツの削除・ブロック義務が課せられる一方、利用者の表現の自由も考慮された規定が設けられています。

著作権管理団体

フランスには、著作権管理団体が多数存在し、著作権の管理・保護、利用許諾の締結、ライセンス料の徴収・分配などを行っています。

結論

フランス著作権法は、著作者人格権を重視する大陸法系の伝統と、現代のデジタル環境に対応した法整備の両方を特徴としています。しかし、権利保護と利用者の権利のバランス、インターネット上の著作権侵害対策、そして著作権管理団体の役割など、解決すべき課題も残されています。

もう一度検索