葛飾北斎と甲斐国

葛飾北斎と甲斐国：浮世絵に描かれた山梨の風景

葛飾北斎（1760-1849）は、江戸時代後期を代表する浮世絵師です。彼は風景画、美人画、役者絵など、幅広いジャンルで才能を発揮し、特に『富嶽三十六景』は彼の名を不朽のものとしました。

一方、甲斐国（現在の山梨県）は、本州の中部に位置する内陸国であり、甲州街道を通じて江戸と結ばれていました。江戸時代には甲府藩が置かれ、城下町を中心に文化が栄え、多くの画家や文人が訪れ、その風景や文化を作品に残しました。

北斎が描いた甲斐国

北斎は生涯で27点もの甲斐国の風景を描いた作品を残しています。これらの作品は、『北斎漫画』『富嶽三十六景』『勝景奇覧』などに収録されており、1816年から1849年までの期間に制作されました。

作品に見る甲斐国の風景

北斎の甲斐国を描いた作品には、甲州街道沿いの名所や、富士山を望む景勝地が多く描かれています。例えば、『北斎漫画』には、猿橋や矢立の杉、巴山などが描かれており、当時の旅人が見たであろう風景を垣間見ることができます。

『富嶽三十六景』では、甲州犬目峠や甲州三坂水面など、富士山を背景にした甲斐国の風景が描かれています。これらの作品は、北斎の卓越した描写力によって、甲斐国の自然の美しさを余すところなく伝えています。

また、『千絵の海』には、甲州火振が描かれており、夏の夜に松明を使って鮎や山女魚を捕る漁の様子が生き生きと描写されています。

甲斐国ゆかりの作品

八朔祭屋台後幕 竹林猛虎図: 都留市に伝わる八朔祭の屋台を飾る幕絵で、北斎が下絵を描いたとされています。刺繍で描かれた虎の迫力ある姿は、見る者を圧倒します。
北斎漫画 五編 無題（富士図）: 針葉樹の林の中に聳える富士山を描いた作品で、本栖湖や河口湖周辺の風景を描いたものと考えられています。
富嶽三十六景 甲州犬目峠: 甲州街道沿いの犬目峠を描いた作品で、かつては絶景の地として知られていましたが、現在では正確な場所が不明となっています。

北斎は甲斐国を訪れたのか？

北斎が実際に甲斐国を訪れたという記録はありません。しかし、彼の作品には、その地域でしか知られていない名所や生業が描かれていること、既存の構図やモチーフに頼らない独自の風景が描かれていることなどから、実際に北斎が甲斐国を訪れ、その目で風景を確かめた可能性も指摘されています。

ただし、この説を裏付けるには、更なる資料の発掘や、北斎と甲斐国を結びつける具体的な人間関係の解明が必要とされています。

まとめ

葛飾北斎が描いた甲斐国の風景は、彼の芸術的な才能と、甲斐国の豊かな自然が融合した貴重な作品群です。これらの作品を通じて、私たちは江戸時代の甲斐国の風景や文化に触れることができるとともに、北斎の芸術の奥深さを改めて認識することができます。

北斎が実際に甲斐国を訪れたかどうかは謎に包まれていますが、彼の作品は、私たちに甲斐国の魅力を語りかけ、その風景を旅してみたいという気持ちにさせてくれます。

参考資料

井澤英理子、宮澤富美恵編『北斎の富士 北斎と甲斐の国』山梨県立博物館、2011年
* 山梨県立博物館 「北斎と富嶽三十六景」展

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