薬師寺元一

薬師寺元一：戦国時代の武将、その生涯と悲劇

薬師寺元一（やくしじ もとかず）は、戦国時代の武将であり、細川氏の重臣として摂津国の守護代を務めました。彼の生涯は、主君である細川政元への忠誠と、それを裏切る謀反という劇的な展開を見せました。

生い立ちと家督相続

元一は、一般的に薬師寺元長の実子とされてきましたが、近年の研究では、元長の弟である薬師寺長盛の長男であり、元長の養子になったとする説が有力です。細川政元から偏諱を受け、元一と名乗りました。

明応9年（1500年）には、政元の命により河内国の畠山義英を助け、畠山尚順を破るという武功を挙げました。文亀元年（1501年）に元長が死去したため、家督を継いで摂津守護代となり、細川政元に仕えました。しかし、近年の研究では、摂津守護代職は分割され、兄である元一が上郡守護代に、弟である長忠が下郡守護代に就いたと考えられています。

細川家内での活躍

元一は、細川家中で重要な役割を果たしました。文亀3年（1503年）には、政元の命令により、阿波国細川家から細川澄元を養子に迎える交渉を成功させています。この養子縁組は、後の細川家における権力闘争の火種となりました。

永正元年（1504年）閏3月、政元は突如として元一を守護代から解任しようとします。しかし、11代将軍・足利義澄がこの人事に介入し、政元に解任の中止を命じたため、元一は守護代の地位を維持しました。この際、元一は義澄に馬や太刀などを贈っています。

謀反と最期

同年9月4日、元一は赤沢朝経と共に、政元を廃して澄元を擁立しようという陰謀を企て、三弟の寺町又三郎と共に摂津で挙兵しました。しかし、この企ては次弟の長忠らに攻められて失敗に終わります。9月19日には居城の淀城が落城し、元一は捕縛されました。そして、政元の命令により京都に送られ、翌20日に自害を余儀なくされました。享年28歳という若さでした。家督と守護代職は弟の長忠が継ぎました。

また、芥川豊後守の養子となっていた末弟・芥川信方も澄元派として知られており、永正5年（1508年）に細川高国によって謀殺されています。

元一の遺児である万徳丸・岩千代丸兄弟は助命され、後に細川高国に召し出されました。これは、元一の正室が赤松氏の一族である摂津有馬氏の出身であり、細川氏と赤松氏の関係に配慮した措置とみられています。

辞世の句と人物像

元一の辞世の句は、彼の人物像を物語る上で重要な要素となっています。

地獄には よき我が主（若衆）の あるやとて 今日おもひたつ 旅衣かな

この歌は、主君である政元との男色関係を示唆していると解釈されています。「我が主」と詠むと、地獄にいる良い主のもとに旅立つ歌となりますが、「若衆」と詠むと、地獄にも良い若衆がいるからお前にとっても居心地が良いぞ、と政元を地獄へと誘う不吉な歌となります。元一は家臣に辞世を伝えさせる際、「若衆と聞こえるよう発音しろ」と指示したと伝えられています。

薬師寺元一は、細川氏の重臣として活躍しながらも、主君への謀反という道を選び、若くして命を落とした悲劇の武将でした。彼の生涯は、戦国時代の権力闘争の激しさと、その中で翻弄される人々の姿を今に伝えています。

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