摂津有馬氏

有馬氏：赤松氏から分かれた名門の興亡

有馬氏は、室町時代から明治時代にかけて活躍した、武家・華族の氏族です。その起源は、村上源氏の一流である赤松氏の庶流に遡ります。摂津国有馬郡を拠点としたことから「摂津有馬氏」や「赤松有馬氏」とも呼ばれ、他系統の有馬氏と区別されています。江戸時代には久留米藩主家など多くの分家が生まれ、明治維新後には伯爵家1家、子爵家1家、男爵家1家を輩出するなど、日本の歴史に大きな足跡を残しました。

室町時代の台頭と家督争い

明徳2年（1391年）の明徳の乱後、赤松則祐の五男である有馬義祐が摂津国有馬郡の地頭に任命され、同地に移り住んだことが有馬氏の始まりとされています。義祐の子・有馬持家は足利義教に仕え、その後、足利義政の寵臣として知られるようになりました。ただし、義政の寵臣であったのは、持家の息子である有馬元家であったとする説もあります。

有馬氏内部では、義祐－持家－元家の系統と、義祐の弟である祐秀－持彦－直祐の系統の間で家督争いが繰り広げられました。康正元年（1454年）、元家が失脚して出家すると、持彦が家督を継承しましたが、応仁の乱後の文明年間には、元家の息子である則秀が家督を回復しています。

摂津国有馬郡は、元々細川氏の勢力を牽制するために赤松氏が分郡守護になっていた地域です。有馬氏は赤松氏から守護権力を分与された存在として位置づけられ、地頭職（分郡守護）を継承する嫡流は、発給文書においても「赤松」の名乗りを用いていました。しかし、赤松氏宗家が衰退すると、有馬氏は細川氏に接近することで有馬郡の支配を維持し、享禄年間以降には当主の文書の名乗りを「有馬」に変更しています。

戦国時代から江戸時代への転換

戦国時代には、有馬村秀が三好長慶の傘下に入り、国衆として活動しました。しかし、織田信長の台頭によって摂津国の支配を任された荒木村重と対立し、天正3年（1575年）、有馬国秀の自害によって本家は断絶しました。

一方、分家の有馬重則は播磨国美嚢郡に進出し、別所氏や淡河氏と対立しました。その子である則頼は豊臣秀吉に仕え、御伽衆に列し、聚楽第に屋敷を与えられました。則頼の次男豊氏は、豊臣秀次の家老・渡瀬繁詮に仕えましたが、文禄4年（1595年）、繁詮が秀次事件により改易されると、その領地である遠江国横須賀3万石を継承しました。

関ヶ原の戦いで東軍に与した有馬親子は、戦功によって則頼は摂津国有馬郡三田藩2万石、豊氏は丹波国福知山藩6万石に封じられました。慶長7年（1602年）、則頼が亡くなると、豊氏は則頼の遺領を含め8万石に加増され、大坂の陣でも徳川方として戦功を挙げたことから、元和6年（1620年）には筑後国久留米藩21万石に移封されました。久留米藩は廃藩置県まで続きました。

久留米藩と支藩

久留米藩主家は、大広間詰の家格で、国持大名として扱われました。初代藩主は有馬豊氏ですが、「久留米藩有馬家」当主の代数は、則頼を初代として数えられています。2代藩主忠頼には当初後継ぎがいなかったため、但馬国出石藩主小出吉重の子を養子として迎えましたが、後に実子が生まれたため、養子には支藩として松崎藩1万石が与えられました。しかし、養子は改易され、松崎藩は一代で断絶しました。

また、久留米藩初代藩主の三男である有馬頼次は徳川忠長に仕えましたが、忠長の改易によって所領を失いました。その後、頼次の継嗣である有馬吉政は紀州藩主に仕え、吉政の孫である有馬氏倫は徳川吉宗に仕え、西条藩、五井藩、吹上藩と移封を重ね、明治維新を迎えます。

明治維新後と華族

明治維新後、最後の久留米藩主有馬頼咸は、新政府の軍務官副知事として戊辰戦争で戦功を挙げ、華族に列しました。その五男である頼万は伯爵に叙せられ、有馬伯爵家は、政治家や作家などを輩出しました。最後の吹上藩主有馬氏弘も華族に列し、養子となった有馬頼之は子爵に叙せられました。さらに、頼咸の八男である頼多は男爵に叙せられ、有馬男爵家となりました。

このように、有馬氏は室町時代からの歴史を持ち、江戸時代には大名として、明治時代以降は華族として、日本の歴史に大きな影響を与えました。その繁栄と衰退、そして様々な支族の興亡を通して、日本の歴史の一端を垣間見ることができるのです。

もう一度検索