薬師寺長忠

薬師寺長忠は、戦国時代の武将であり、細川氏（京兆家）の重臣として知られ、摂津守護代という重要な役職を担っていました。

長忠の出自については、従来、薬師寺元長の実子とされてきましたが、近年の研究では、元長には実子がおらず、その弟である薬師寺長盛の次男である可能性が高いとされています。

薬師寺家の家督と摂津守護代職は、元長の死後、兄である薬師寺元一が継承していました。しかし、永正元年（1504年）に元一が細川政元の養子の一人である澄元を擁立するために挙兵した際、長忠がこれを鎮圧しました。この功績により、長忠が守護代職と家督を継いだとされています。ただし、近年の研究では、薬師寺氏の摂津守護代は兄弟で摂津を分割する慣例があり、元一が上郡、長忠が下郡の守護代を務め、元一の反乱後、長忠の下に守護代職が再統合されたと考えられています。

永正4年（1507年）6月23日、長忠は香西元長や竹田孫七らと共謀し、主君である細川政元を暗殺するという事件（永正の錯乱）を起こしました。そして、政元の養子である細川澄之を擁立しました。この背景には、長忠が政敵であった三好之長を排除するため、之長を重用していた政元を殺害し、細川家の権力を掌握しようとしたという説が有力です。

しかし、その約40日後の8月1日、長忠は細川高国方に属していた甥（元一の子）の万徳丸（薬師寺国長）に茨木城で攻撃を受け、澄之や香西元長らと共に討ち死にしました。その後、細川高国によって、摂津守護代職は再び万徳丸（薬師寺国長）とその弟である岩千代丸（薬師寺国盛）兄弟によって分割されることとなりました。

薬師寺長忠の生涯は、室町幕府の衰退と戦国時代の幕開けが交錯する激動の時代を象徴しており、彼の行動は、当時の権力闘争や政治的駆け引きの複雑さを物語っています。

参考文献
* 長江正一 『三好長慶』 吉川弘文館〈人物叢書〉、1968年（新装版、1989年4月、ISBN 978-4-642-05154-5）

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