藍摺

藍摺（あいずり）

藍摺とは、江戸時代の浮世絵における様式のひとつで、藍絵、藍摺絵とも呼ばれます。

概要

藍摺は、濃淡の藍色のみを使用するか、または少量の紅や黄色などを限定的に加えて作画された浮世絵を指します。実際には、濃淡に分けた藍色で版を重ねて摺り上げられた錦絵の一種であり、歌川広重の「両国の宵月」のように、藍色に加えて紅を摺り重ねた作品も存在します。

文政年間（1818年 - 1830年）末に、当時「ベロ藍」と呼ばれたペルシャ藍（プルシアンブルー）が大量に輸入されるようになると、文政12年（1829年）頃から狂歌摺物などに多く用いられるようになりました。渓斎英泉は、藍色のみの諧調を使用した風景画の団扇絵「唐土山水」（ブルックリン美術館所蔵）シリーズ（版元は伊勢屋惣兵衛）を制作し、その斬新な色調が大衆の人気を博しました。

天保の改革による奢侈禁止令の結果、錦絵の彩色が制限されたことを背景に、1830年代から藍摺が盛んに作られるようになり、その強い藍色による清新な感覚が受け入れられ、一大ブームとなりました。天保元年（1830年）から天保3年（1832年）にかけて刊行された葛飾北斎の「冨嶽三十六景」（甲州石班澤の初摺）などは、藍摺の代表作として知られています。また、同じく北斎の天保5年（1834年）の中判花鳥画10枚揃のうち「鶯 垂桜」も藍摺の作例として挙げられます。

藍摺は、その独特な色彩と表現によって、江戸時代の浮世絵の世界に新たな風を吹き込みました。奢侈禁止令という制約の中で生まれた表現方法でありながら、その芸術性の高さと大衆の人気によって、浮世絵の歴史に名を残す様式となりました。

参考文献

日本大辞典刊行会編　『日本国語大辞典』（第1巻）　小学館、1987年
吉田漱　『浮世絵の基礎知識』　大修館書店、1987年
稲垣進一編　『図説浮世絵入門』〈『ふくろうの本』〉　河出書房出版、1990年
『日本歴史大事典』（第1巻）　小学館、2000年　※「藍摺」の項

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