団扇絵

団扇絵（うちわえ）

団扇絵とは、日本の江戸時代から明治時代にかけて制作された浮世絵版画の一様式であり、団扇の形に摺られた絵のことです。実用的な団扇として使用されるだけでなく、美術品としても鑑賞されました。

歴史

団扇絵の始まりは、延享元年（1744年）に三代目上村吉右衛門が伊場屋勘左衛門に色摺りの団扇絵を贈ったこととされています。当初は紅摺絵の時代であり、鳥居清満らが役者絵の団扇絵を描いていました。寛政期には喜多川歌麿も役者絵の団扇絵を手掛けています。

団扇絵は、四角い紙に団扇の形に版画を摺ったもので、これを竹の骨に貼って実際に使用しました。実用された団扇絵は消耗品として残りにくいものの、団扇として使用されずに鑑賞されたり、図柄の見本帖として綴じられたりしたものが現存しています。

特徴

団扇絵は、その形状とデザインに特徴があります。扇形の中に、人物、風景、物語の一場面などが巧みに配置され、日本の美意識が表現されています。また、団扇絵は、庶民の生活に密着したものであり、広告媒体としても利用されました。呉服屋、料理屋、化粧品屋などが、得意先に配布するために団扇絵を制作し、宣伝に利用しました。

代表的な絵師と作品

団扇絵は、多くの浮世絵師によって手掛けられ、一大ジャンルを形成しました。歌川豊国、歌川国貞、歌川国芳、歌川貞秀、歌川広重、葛飾北斎などが、数多くの団扇絵を残しています。特に広重は120点以上の団扇絵を制作しており、その作品数の多さが際立っています。

明治時代に入ると、豊原国周、歌川房種、小林清親らが団扇絵を描き、錦絵の高度な技術と優れたデザインによって、市民に愛されました。また、3代歌川広重や河鍋暁斎らは広告用の団扇絵も手掛けました。大阪では林基春が団扇絵を多く描いています。

主な作品

鳥居清満 「中村介五良の粂の平内」 紅摺絵
喜多川歌麿 「丁子屋内丁山」 錦絵
喜多川歌麿 「遊女道中図」 錦絵
歌川豊国 「今様十二ヶ月」 錦絵12枚組
歌川国芳 「猫のすずみ」 錦絵
歌川広重 「江戸名所浅草金龍山」 錦絵
* 葛飾北斎 「勝景奇覧」 錦絵揃物

これらの作品は、東京国立博物館、ボストン美術館、ヴィクトリア&アルバート美術館など、国内外の美術館に所蔵されています。

まとめ

団扇絵は、江戸時代から明治時代にかけて日本の人々に愛された浮世絵版画の一様式です。実用性と美術性を兼ね備え、多くの絵師によって多様な作品が生み出されました。団扇絵は、当時の風俗や文化を伝える貴重な資料であるとともに、日本美術の美しさを代表する作品群として、今日でも高く評価されています。

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