藍衣社

藍衣社：蒋介石政権下の謎の組織

藍衣社は、中国国民党政権下で暗躍した秘密結社であり、その実態は謎に包まれています。正式名称は三民主義力行社、または中華民族復興社とされ、蒋介石の直属機関として、情報収集や工作活動、そして暗殺といった様々な活動を行っていました。イタリアの黒シャツ隊を模倣した藍色の制服が特徴で、このことから「藍衣社」という通称で広く知られるようになりました。

組織構造と活動

藍衣社は、蒋介石を頂点とする総幹事会の下に、書記処、組織班、訓練班、総務班といった部署が設置されていました。さらに、社長・幹事会直属の総会検察会（特務処）が、国内外の監視や特殊任務を担当していました。構成員の中心は黄埔軍官学校の卒業生で、軍事委員会調査統計局（軍統）とも密接な関係を持ち、反共活動や国民党支配の維持に大きな役割を果たしました。軍組織への浸透も深く、国民党軍の指揮系統の三分の二を掌握していたともいわれています。

藍衣社の活動は多岐に渡り、秘密警察業務、軍情報業務、工作員養成、そして暗殺なども行われていました。その手法は徹底しており、政治的な反対者だけでなく、日本の侵略政策に加担する勢力も標的となりました。日本側は、藍衣社を占領政策に抵抗し、諜報活動を行う不可解な組織として認識していました。

歴史的背景と沿革

藍衣社の起源は、1924年に黄埔軍官学校内に設立された孫文主義学会に遡ります。この学会では、孫文の三民主義とマルクス主義の研究が盛んに行われ、ナショナリズムを基軸とした政治思想が形成されました。満州事変後、日本のファシズムに対抗するため、中国もファシズムによる政治改革が必要という考え方が台頭し、蔣介石は強力なファシズム団体結成を指示しました。

1932年、南京で三民主義力行社が設立され、藍衣社の母体となります。蔣介石を永久最高の指導者とすること、黄埔軍官学校を基幹とすること、三民主義を信奉しソ連の組織力と日本の武士道精神を組み合わせること、といった原則が定められました。綱領には、日本帝国主義打倒、共産党員・漢奸・汚職官僚の排除などが掲げられ、「安内攘外」政策を支持しました。

盧溝橋事件以前には、蔣介石や国民党に反対する活動家やジャーナリストを暗殺・処刑するなど、テロ活動も展開していました。盧溝橋事件勃発後は、抗日活動を優先し、テロの対象を日本の傀儡政権関係者へと変更しました。1938年には名目上解散し、三民主義青年団と軍統に分割されましたが、その後も日本軍占領地での抗日活動に継続して関与しました。汪兆銘暗殺未遂事件などもこの活動の一環です。日中戦争期には、ドイツ軍事顧問団の提案を受け、日本軍占領地の破壊工作や親日政府要人の暗殺なども行われたとされています。

結論

藍衣社は、国民党政権下で大きな影響力を持った秘密結社であり、その活動は複雑で多面的でした。蒋介石の独裁体制を支える一方で、抗日活動にも関与したその実態は、現在でも歴史研究者の間で議論が続けられています。盧溝橋事件における停戦協定の条件に藍衣社の取り締まりが含まれたことからも、その存在が当時いかに大きな問題であったかがわかります。その歴史と活動を理解することは、中国近現代史を理解する上で重要な要素となるでしょう。

参考文献

外文出版社（北京）「毛沢東選集　第三巻」
樹中毅「レーニン主義からファシズムへ　蔣介石と独裁政治モデル」アジア研究 51(1), 2005年、アジア政経学会
菊池一隆、野口鐵郎（編）、2005、「政治テロの横行」、『結社が描く中国近現代』、山川出版社〈結社の世界史〉
菊池一隆『中国国民党特務と抗日戦争 ―「C・C」系・「藍衣社」・三民主義青年団―』汲古書院〈汲古叢書173〉、2022年10月20日。

もう一度検索