藤原春津

藤原春津（ふじわら の はるつ）は、平安時代初期から前期にかけて活躍した貴族です。藤原式家の出身で、左大臣を務めた藤原緒嗣の次男として生まれました。彼の官位は最終的に従四位上に至り、刑部卿も歴任しました。

経歴

春津は、天長年間初頭に左近将監に任官し、官界でのキャリアをスタートさせました。天長7年（830年）には皇太后宮大進（皇太后は橘嘉智子）に転任し、翌天長8年（831年）には淳和天皇が後宮で催した宴で昇叙され、従五位下に叙爵されました。同年には近江権介にも任命されています。

仁明天皇の治世に入ると、天長10年（833年）には従五位上に昇進しましたが、翌承和元年（834年）には備中権守に転任しました。承和5年12月（839年1月）には侍従に任じられ、京官として中央に戻りました。承和9年（842年）には正五位下・右馬頭に叙任され、同年の3月には渤海使に勅を伝えるため鴻臚館へ派遣されています。翌承和10年（843年）、父である左大臣・緒嗣が辞任を申し出た際、特別に従四位下に叙せられました。

嘉祥2年（849年）には、渤海使に勅書と太政官牒を渡すために、参議・小野篁らと共に鴻臚館へ派遣されています。文徳天皇の治世前半には、右兵衛督や刑部卿を歴任し、仁寿元年（851年）には従四位上に叙せられています。天安元年（857年）には但馬守に転じ、貞観元年（859年）には備前守となりましたが、いずれも現地には赴任しませんでした。貞観元年（859年）7月13日に52歳で亡くなりました。最終的な官位は従四位上行備前守でした。

人物

春津は、その姿形の美しさと上品な人柄で知られていました。名門貴族の家柄に生まれ、兄・家緒の死によって父・緒嗣の後継者となりましたが、出世や物欲には無関心で、蒐集した馬の観賞を唯一の楽しみとして、出仕を好まなかったと伝えられています。文徳天皇は、彼の隠遁ぶりを「南山の玄豹」と評しました。『尊卑分脉』には「日本第一富人名人也」と記されており、その富裕さと特異な人物像が伺えます。また、父が建立に着手していた観音寺を完成させたことでも知られています。

官歴

『六国史』によると、春津の官歴は以下の通りです。

天長年間初頭：左近将監
時期不詳：正六位上
天長7年（830年）：皇太后宮大進（皇太后は橘嘉智子）
天長8年（831年）2月16日：従五位下、近江権介
天長10年（833年）11月18日：従五位上
承和元年（834年）：備中権守
承和5年（838年）12月20日：侍従
承和9年（842年）正月7日：正五位下、7月25日：右馬頭
承和10年（843年）正月21日：従四位下
嘉祥3年（850年）：辞官（母服喪）
時期不詳：右兵衛督
仁寿元年（851年）4月1日：出居侍従、11月26日：従四位上
仁寿年間初頭：刑部卿
斉衡4年（857年）正月14日：但馬守
貞観元年（859年）正月13日：備前守、7月13日：卒去（従四位上行備前守）

系譜

『尊卑分脉』によれば、春津の系譜は以下の通りです。

父：藤原緒嗣
母：蔵垣人山（または企）の娘
妻：紀御依の娘
子：藤原枝良（八男、845-917）
生母不明の子女：藤原常氏、藤原常仁、藤原常数、藤原在数、藤原文弘または藤原興邦室

春津は、その独特な生き方と、名門貴族でありながら出世を求めない姿勢が、後世に語り継がれる人物です。

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