渤海使

渤海使について

渤海使とは、7世紀末から10世紀初頭にかけて存在した渤海国が、日本へ派遣した使節のことです。記録に残る限り、727年から919年までの間に34回（または922年までに35回）の派遣が確認されており、さらに929年には東丹国（契丹の封国）からも使節が派遣されました。

概要

渤海は698年に建国され、当初は唐や新羅と対立していました。国際的に孤立しかけた渤海は、これらの勢力を牽制するために日本への使節派遣を計画しました。使節団の出発地は、現在のロシア沿海地方にあるクラスキノ土城遺跡が有力視されています。渤海側は当初、軍事同盟を締結しようとしましたが、日本側は使節を朝貢と解釈し、手厚くもてなしました。

しかし、渤海と唐の関係が改善されると、使節の目的は軍事的なものから文化交流や経済活動へと変化しました。特に朝貢貿易の形態は、渤海に多大な利益をもたらしましたが、日本側にとっては、回賜の負担が重く、使節の来朝頻度を制限することになりました。それでも、両国間の交流は渤海が滅亡するまで続けられました。

渤海使は、唐と日本との間の交通の仲介役としても機能しました。例えば、遣唐使の平群広成が渤海使とともに帰国したり、唐の宣明暦が渤海使によって日本に伝えられたりしました。また、『新唐書』には、渤海が日本の舞女を唐に献上したという記録も残っています。

貿易品目

貿易品目としては、渤海からは北方産の獣皮（貂、虎、羆など）や人参、蜜などが、日本からは繊維製品、金、水銀、金漆、海石榴油、水精念珠、檳榔樹扇などが取引されました。

渤海使と漢詩

渤海と日本の両国は、共に唐の漢字文化圏に属しており、漢籍や漢文学が教養として重視されていました。言葉が通じなくても、筆談で意思疎通が可能であり、文書は翻訳せずにそのまま通用しました。特に漢詩が盛んに交わされたのは、初期の軍事外交から経済外交へと移行した時期以降です。

初期の渤海使は武官が中心でしたが、762年以降は文官が派遣されるようになり、漢詩文に長けた文人が多く選ばれました。758年に来日した渤海使・揚承慶の際には、藤原仲麻呂の邸宅で漢詩の応酬が行われ、渤海の副使・楊泰師がこれに応じました。また、814年には、文人をそろえた渤海使節団が派遣され、日本の文人たちと漢詩を交わしました。これらの漢詩は、『経国集』や『文華秀麗集』などの漢詩集に記録されており、当時の両国の文化交流を知る上で貴重な資料となっています。

渤海からは、王文矩、周元伯、楊成規、裴頲、裴璆などの優れた文人が来日し、日本からは、菅原清公、菅原道真、嶋田忠臣、都良香、紀長谷雄、大江朝綱、藤原雅量などの文人が応対しました。これらの漢詩は、文学的な価値だけでなく、当時の政治状況や文化交流を理解する上で重要な手がかりとなります。

渤海使一覧

（注：926年に渤海は契丹（後の遼）に滅ぼされた。929年の使節は契丹が建てた東丹国よりの使者が渤海使の後継を名乗ったものである。）

航路と渤海使船

渤海使船に関する文献は少ないですが、同時代の遣唐使船を参考にすると、全長30m程度、幅8m、排水量300t、乗船人員は40～60人程度、積載量は150t程度と推定されています。

来航の頻度

当初は12年に一度の来航でしたが、交易が中心になると回数が増加しました。しかし、渤海からの貢物に対する回賜の負担が大きかったため、来航回数は制限されました。交易目的の来航者は入京を許されませんでした。

日本への航路

渤海使は、北西の季節風とリマン海流を利用して朝鮮半島沿岸を南下し、対馬暖流に乗って日本に到達しました。多くは秋から冬にかけて来航しました。

上陸地

渤海使は、日本海側の山陰から北陸、東北にかけて多くの港に上陸しました。当初は広い範囲に着岸していましたが、次第に西側の地域に集中するようになりました。福良津（現在の石川県志賀町福浦港）は、渤海使の来着地の一つとして有力視されています。

上陸後

上陸した渤海使は、北陸道を通って平城京や平安京を目指しました。入京が許されるかどうかに関わらず、滞在場所（安置）が設けられ、食料や衣料などの物資が提供されました。安置場所としては、郡家、国府、駅館などが利用されたと考えられます。

帰国航路

帰国する際は、対馬海流に乗って東北地方沿岸を北東に進み、北海道、サハリンを経てリマン海流に乗り、沿海州沿岸を南下したと考えられます。

脚注

注釈

出典

参考文献

田村晃一『論集:沿海州渤海古城クラスキノ古城の機能と性格』青山学院大学クラスキノ土城発掘調査団・ロシア科学アカデミー極東支部歴史考古民族学研究所（2013年）
上田雄『渤海国の謎～知られざる東アジアの古代王国～』講談社現代新書、1994年

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