藤沢大坂町

藤沢大坂町

藤沢大坂町（ふじさわおおさかまち）は、かつて神奈川県の中央南部、高座郡に存在した町です。現在の藤沢市域の一部、具体的には藤沢や善行の各地区に相当します。この町名は、藤沢駅周辺にあった二つの地区、すなわち藤沢駅大久保町と藤沢駅坂戸町が合わさって誕生しました。ここでいう「藤沢駅」という地名は、鉄道駅を指す現代的な意味合いではなく、古くからの宿場である藤沢宿の名残であり、当時の行政区分において「町」に近い意味合いを持っていたと考えられています。

地理

町の地理的特徴としては、地域の主要な河川である境川が挙げられます。

歴史

藤沢大坂町の歴史は、明治時代の鉄道開業と深く関わっています。1887年（明治20年）7月11日、現在の東海道線の前身となる鉄道路線上に藤沢駅が開業しました。この駅周辺にあった藤沢駅大久保町と藤沢駅坂戸町が翌1888年（明治21年）に合併し、藤沢大坂町が成立します。この際、大字は編成されませんでした。

そして、1889年（明治22年）4月1日に町村制が施行されると、藤沢大坂町はその区域をもって一つの独立した町となりました。この時期、町では産業の振興が見られ、1891年（明治24年）には内田製糸所、1895年（明治28年）には宮台製糸場が設立されるなど、製糸業が発展します。また、駅開業から数年後の1895年（明治28年）4月1日には、藤沢駅が正式に東海道線の駅として位置づけられました。経済活動も活発化し、1899年（明治32年）には相模共栄銀行（後に横浜銀行に合併）が設立されたほか、1900年（明治33年）には藤沢精米合資会社や藤沢大坂町農会が、1902年（明治35年）には高座郡農事試験場が設けられるなど、多様な産業・農業関連組織が誕生しています。製糸業の発展も続き、1903年（明治36年）に羽生製糸場、1905年（明治38年）に田中製糸場が設立されています。

1907年（明治40年）10月1日には、近隣の鎌倉郡藤沢大富町を編入合併し、町の範囲を広げました。この際に、元の藤沢大富町の区域には新たな大字が編成されました。

しかし、藤沢大坂町としての存続期間は短いものでした。1908年（明治41年）4月1日、高座郡内で進められた町村合併により、藤沢大坂町は隣接する鵠沼村、明治村と共に廃止され、これらの区域をもって新たに高座郡藤沢町が発足しました。新町役場は、元の藤沢大坂町役場がそのまま使用されました。合併後、旧藤沢大坂町の区域には、同年10月1日より「藤澤」という大字名が付されて施行されています。

経済と産業

藤沢大坂町では、明治期に多様な経済活動が営まれていました。特に商工業が盛んで、米穀肥料商、精米製粉業、西洋小間物商、荒物商といった小売・卸売業のほか、貸座敷業や旅館といった宿泊・遊興関連の産業、医薬品販売、呉服太物商、古着・質商、材木商、陶器漆器商、紙・畳表商、砂糖商、書籍商など、生活必需品から専門的な品物までを扱う商店が見られました。

製造業も立地しており、前述の製糸場に加え、麻糸製造業、諸機械・汽缶製造、清酒醸造業、銅鉄鋳物製造業などが存在しました。主要な企業としては、地域金融を担った相模共栄銀行や、繭糸・米穀肥料の委託売買や貸金、繭乾燥などを行った藤沢大丸商会がありました。農業も営まれており、地域経済を支えていました。

交通

交通においては、町の成立に大きな影響を与えた東海道線の藤沢駅が中心的な役割を果たしました。また、かつての東海道である國道2號が町を貫いており、これは現在の神奈川県道30号、国道467号、神奈川県道43号といった主要道路網の一部となっています。この旧東海道沿いには、かつて宿場町として栄えた藤沢宿が位置していました。

ゆかりのある人物

医師であり衆議院議員も務めた平野友輔氏が、この町にゆかりのある人物として挙げられます。

名所・旧跡

町域には、歴史上の人物である小栗判官の墓といった名所旧跡が存在しました。

このように、藤沢大坂町は短期間ながらも、明治期の鉄道開業を契機に商業や産業が発展し、近隣地域との合併を経て現在の藤沢市の基礎の一部を築いた、近代藤沢の形成過程における重要な一時期を担った町でした。

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