藤波友忠

藤波友忠：神宮祭主、波乱の生涯と佐渡の絵馬

藤波友忠（ふじなみ ともただ）は、江戸時代前期に生きた公家であり、神宮祭主を務めた人物です。慶長7年（1602年）に祭主・藤波種忠の子として生まれ、元和9年（1623年）に叙爵、翌年には父の後を継いで祭主となりました。

位階昇進問題と流罪

友忠の祭主時代には、伊勢両宮の禰宜たちから位階昇進の要望が提出されました。これは、後一条天皇から後陽成天皇の時代には即位の恩賞として行われていたものでしたが、後水尾天皇以降の3代では実施されていませんでした。禰宜たちは例幣再興に合わせて昇進を願い出ましたが、友忠を通しての再三の願いも受け入れられませんでした。

これに対し禰宜たちは、昇進が受け入れられないのは友忠の策略であると訴え、朝廷に直接訴え出る事態となりました。後光明天皇は総位階昇進を許可する方針を示しましたが、友忠はこの方針に不満を抱き、京都所司代の板倉重宗に働きかけ、阻止を試みました。しかし、この行動が天皇の逆鱗に触れ、友忠は叡慮に背いた罪で処罰されることになります。

承応2年（1653年）には江戸に赴き、将軍徳川家綱に謁見しましたが、詮議の結果、越後国村上藩主松平藤松に身柄を預けられることになりました。勅勘により位記と官職を辞し、将軍の奏上により佐渡国への流罪が決定、佐渡へと送られました。妻と息子は井伊直孝に預けられ、これにより藤波家は一時中絶することとなりました。後任の祭主には、大宮司の河辺定長が任命されました。

佐渡での生活と絵馬の逸話

佐渡に渡った友忠は出家し、休岸（きゅうがん）と名乗りました。配所となった狄村（現在の佐渡市北狄）の齋藤万五郎家に身を寄せ、胎蔵寺に住みました。島民からは「祭主様」と慕われ、その人柄は深く敬愛されたと伝えられています。

万治4年（1661年）には、赦免を願って胎蔵寺に絵馬を奉納しました。この絵馬には、興味深い逸話が残されています。ある年、毎夜現れる裸馬が田畑を荒らし、困った村人が友忠に相談したところ、友忠は奉納した絵馬に口取り縄を描き加えました。すると、それ以降裸馬が現れなくなったというのです。この絵馬は、平成11年（1999年）に相川町指定文化財、平成16年（2004年）に佐渡市指定有形民俗文化財となりました。

赦免と晩年

絵馬奉納から4年後の寛文5年（1665年）に、友忠は赦免されました。その後、京都に帰洛し、寛文8年（1668年）に67歳でその生涯を終えました。

官歴

元和9年10月21日（1623年12月12日）：従五位下
元和10年1月6日（1624年2月24日）：神祇権少副、祭主
寛永4年11月6日（1627年12月13日）：従五位上
寛永6年9月10日（1629年10月26日）：正五位下、神祇権大副
* 慶安2年9月2日（1649年10月7日）：従四位下、神祇大副

藤波友忠の生涯は、公家としての栄光と、位階昇進問題を巡る苦難、そして佐渡での生活と絵馬の逸話など、波乱に満ちたものでした。彼の足跡は、現代にも文化財としてその一部を伝えています。

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