藤田省三 (思想史家)

藤田省三：戦後日本思想史における異端の思想家

藤田省三(1927-2003)は、20世紀後半の日本を代表する政治学者であり、思想史家です。愛媛県今治市出身。太平洋戦争で兄2人を亡くした経験は、彼の人生観に大きな影響を与えたと言われています。

東京大学法学部卒業後、法政大学で教鞭をとり、戦後日本における天皇制国家の構造、明治維新の精神、そして現代社会の精神構造を鋭く分析しました。丸山眞男に師事した彼は、丸山学派を代表する思想家として、その独特の視点を提示し続けました。

丸山学派と天皇制国家論

藤田の学問的基盤は、師である丸山眞男の思想に深く根ざしています。特に、天皇制国家の構造分析においては、戦後日本の思想史に画期的な貢献を果たしました。彼の著作『天皇制国家の支配原理』は、丸山天皇制論を継承しつつ、明快で独自の解釈を加えたものとして高く評価されています。

ただし、彼の著作は「寡作」と評されるほど多くはありません。しかし、その少ないながらも力強い著作群は、後世の研究者たちに多大な影響を与え続け、今もなお重要な研究対象となっています。

『共同研究 転向』への参加と思想の変遷

鶴見俊輔らと共に執筆に関わった『共同研究 転向』においても、藤田は中心的役割を果たしました。「転向」とは、戦前の思想家たちが、軍国主義体制への批判から転向した経緯を分析したもので、藤田の思想形成においても重要な位置を占めています。

また、彼は雑誌『思想の科学』にも参加していましたが、1962年の天皇制特集号廃棄事件をきっかけに、同誌を批判する論文を発表し、研究会を退会。この出来事は、藤田の独立性と思想的な一貫性を示す重要なエピソードです。

晩年と自然葬

晩年は直腸癌と闘病しながらも、執筆活動を続けました。そして、2003年に肺炎のため逝去。自身の遺志により、「西多摩再生の森」で自然葬されました。この自然葬は、彼の人間性と環境問題への関心を反映していると言えるでしょう。

著作と思想

藤田の著作は多岐に渡り、天皇制国家論にとどまらず、明治維新、現代社会の精神構造、さらには精神史的な考察まで手がけています。

彼の思想を特徴づけるのは、現代社会を鋭く批判する視点です。高度技術経済を支える精神的基盤を、「安楽への欲求」に求めた彼の分析は、現代社会の抱える問題を深くえぐり出すものです。この「安楽」という概念は、不快や困難を回避することに価値を置き、結果としてニヒリズムに陥る現代人の精神状態を的確に捉えていると言えるでしょう。

代表的な著作には、『藤田省三著作集』、『天皇制国家の支配原理』、『維新の精神』、『精神史的考察』などがあります。これらの著作は、みすず書房から出版され、現在も思想史研究において重要な文献として参照されています。 また、『藤田省三セレクション』や『語る藤田省三　現代の古典をよむということ』など、より一般向けの作品も存在します。

彼の生涯と業績は、戦後日本の思想史を理解する上で欠かせない重要な要素です。藤田省三の思想は、現代社会の私たちに、多くの示唆を与え続けています。

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