血洗
島は、
埼玉県深谷市北西部に位置する地域です。南北に長く伸びるその地は、利根川と小山川に挟まれた
沖積平野に属し、平坦な地形が特徴です。周囲には下手計、上手計、町田、南阿賀野、北阿賀野、横
瀬といった地域が隣接し、北部には
群馬県伊勢崎市境
島村が近くにあります。地区の中央部を清水川が東西に流れ、地域全体に畑が広がり、野菜栽培が盛んな農業地域です。
血洗島の歴史:古文書に刻まれた変遷
血洗
島の歴史は古く、
江戸時代以前から存在していました。武蔵国榛沢郡岡部領に属し、さらに遡ると大寄郷藤田荘の一部であったとされています。
慶安年間(1649~
1650年)に作成された『武蔵田園簿』にもその名が記されており、戦国時代には芦田氏領であったこともわかっています。天文6年(
1537年)には
下総国の吉岡和泉重行が当地に移住し開墾を開始したとされ、当時はわずか5軒の戸数でした。
その後、村高は変遷を続け、『武蔵田園簿』では210石余、『元禄郷帳』では210石余、『
岡部藩領取調帳』や『
天保郷帳』では346石余と記録されています。化政期には戸数50軒、東西4町余、南北19町という規模に成長しました。かつては上ノ淵、下ノ淵と呼ばれる沼地が存在し、北部には水除堤が築かれていたようです。主な産業は養蚕で、蚕卵紙や生糸が生産されていました。それと並ぶ重要な産業として藍の生産があり、良質な藍が盛んに生産されていました。
明治時代の
町村制施行後は、血洗
島村から手計村の
大字血洗
島となり、その後八基村、豊里村を経て、
1973年に
深谷市に編入されました。この間、行政区域の変更や合併を繰り返し、現在の血洗
島地区となりました。
2010年には清水川の河川改修に伴い青淵公園が整備されました。
地名の由来:諸説ある謎めいた地名
「血洗
島」という地名は、その由来について複数の説があります。
渋沢栄一は『龍門雑誌』で、赤城山と他の山霊の戦いに関する伝説を紹介していますが、これはあくまで伝説の一つです。他に、
アイヌ語由来説や、合戦で負傷した家臣の傷を洗ったという説なども存在します。また、
島ではないにもかかわらず「
島」と付くのは、かつてこの地域一帯が利根川の氾濫原で「四
瀬八
島」と呼ばれていたことによると考えられています。
藍の生産:深谷の特産品
江戸時代、藍は重要な
染料作物でした。
阿波国(徳
島県)吉野川周辺が有名でしたが、利根川周辺も重要な産地でした。血洗
島も利根川に近いことから藍の生産が盛んであり、中
瀬河岸から
肥料となる粕や
干鰯を仕入れることができました。渋沢家の「中の家」でも藍の栽培と藍玉の製造が行われていたと言われています。
渋沢栄一は若い頃、血洗
島の藍葉の鑑定を行い、藍の生産を向上させるために努力しました。しかし、
明治期後半にはインド藍の輸入や化学
染料の普及により、藍の生産は衰退し、養蚕へと転換していきました。
渋沢栄一と血洗島:生誕地とゆかりの場所
血洗
島は、日本資本主義の父と呼ばれる
渋沢栄一の生誕地です。栄一の旧宅「中の家」は、1895年に妹と妹婿によって建てられ、栄一が帰郷時に宿泊した部屋も残されています。現在は
深谷市が所有し、史跡として公開されています。2022年から2023年にかけて改修工事が行われ、リニューアルオープンしました。施設内には栄一のアンドロイドも展示されています。
また、血洗
島の諏訪神社は旧血洗
島村の鎮守で、栄一はここの獅子舞を愛し、拝殿を寄進したと言われています。境内には栄一の喜寿を祝う碑も建立されています。
血洗島地区の現在:教育、交通、施設
血洗
島地区には学校はありません。児童生徒は
深谷市立八基小学校と
深谷市立豊里中学校に通学します。鉄道は通っておらず、最寄りの深谷駅からは約6km離れています。
深谷市コミュニティバス「くるりん」が運行しており、県道45号本庄妻沼線と県道355号中
瀬普済寺線が地区内を通っています。地区内には、旧渋沢邸「中の家」の他、諏訪神社、青淵公園、創学舎高等学校、
深谷市立八基小学校の一部校地(体育館・プール)、薬師堂、稲荷神社などの施設があります。
参考文献
大日本篤農家名鑑編纂所編『大日本篤農家名鑑』
扶桑社編『大日本蚕業家名鑑 正』
「角川日本地名大辞典」編纂委員会『角川日本地名大辞典 11 埼玉県』
『日本歴史地名大系 第11巻(
埼玉県の地名)』