行尊

行尊：平安時代後期の僧侶、歌人、そして園城寺の復興者

行尊（ぎょうそん、1055年-1135年）は、平安時代後期を代表する天台宗の僧侶であり、優れた歌人としても知られています。参議源基平を父に持ち、幼少期より優れた才能を示しました。園城寺（三井寺）で出家後、明尊や頼豪ら著名な僧侶から教えを受け、密教の奥義を深く修めました。

修行に励む行尊は、延久2年（1070年）頃より、大峰山、葛城山、熊野山など、険しい山岳地帯で厳しい修行を重ねました。その経験から、修験者としての名声を高めていきます。霊山での修行を通して、深遠な仏教の教えと自然の神秘を深く体得していったと考えられます。

彼の卓越した能力は朝廷にも認められ、永久4年（1116年）には熊野三山の2代検校に任命されます。この役職において、行尊は熊野本宮から大峰山、吉野へと至る峰入りの行程、いわゆる順峰を選定するなど、熊野と大峰を結ぶ重要な役割を担いました。これは、修験道の発展に大きく貢献したと考えられます。

嘉承2年（1107年）には法眼に叙せられ、同年、鳥羽天皇の即位に伴い、天皇の護持僧に任じられました。行尊は加持祈祷によってしばしば霊験を示し、朝廷や貴族社会からの崇敬を集めました。その霊力と高い宗教性は、当時の社会に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

その後、園城寺の長吏に任じられ、保安4年（1123年）には天台宗の最高位である天台[[座主]]となりました。しかし、延暦寺との対立によりわずか6日で辞任せざるを得ませんでした。これは、当時の宗教勢力間の複雑な権力闘争を反映していると言えるでしょう。天治2年（1125年）には大僧正に任じられ、崇福寺、円勝寺、天王寺など多くの寺院の別当を歴任しました。さらに、衰退していた園城寺の復興に尽力し、寺院の再興に大きく貢献しました。

行尊は宗教家としての活動のみならず、優れた歌人としても知られています。彼の作品は『金葉和歌集』をはじめとする多くの勅撰和歌集に48首も収録され、その高い才能が認められています。特に有名なのは、小倉百人一首にも収録されている「もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし」です。この歌は、山桜の美しさと、その儚さを繊細に表現しており、行尊の感性の深さを示しています。また、彼自身の歌集『行尊大僧正集』も存在し、その作品群は後世の歌道に大きな影響を与えました。

鎌倉時代に編纂されたとされる『寺門高僧記』には、行尊の「観音霊所三十三所巡礼記」が収められています。これは西国三十三所巡礼の最古の記録として高く評価されており、巡礼の歴史を解明する上で貴重な史料となっています。さらに、行尊は能筆としても知られており、多方面に才能を発揮した人物であったことが分かります。

行尊の生涯は、宗教家、歌人、そして園城寺の復興者としての多様な側面を備えた、平安時代後期の重要な人物像を示しています。彼の業績は、宗教、文化、歴史の各分野に大きな足跡を残し、現代においても高く評価されています。

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