裂織

裂織（さきおり） − 古布に息づく、日本の伝統と創造性

裂織とは、古くなった布を細く裂いて緯糸とし、麻糸などの経糸で織り上げた織物、またはそれを用いた衣類のことです。東北地方を中心に「サクオリ」「サッコリ」「ツヅレ」「ぼろ織り」など、地域によって様々な呼び名で親しまれてきました。

歴史：時代を超えて受け継がれる技

裂織の起源は江戸時代中期、東北地方に遡ります。寒冷な気候と綿や絹の不足から、人々は日用品や衣服を作るために、大麻の葉を裂いて糸を作り、織物を制作しました。寒さ対策として、重ねて刺し子にしたり、布団に干草を詰めたりする工夫も凝らされていました。

17世紀以降、北前船の航路開通により近畿地方から古着の木綿が東北地方に持ち込まれるようになりました。木綿は肌触りがよく人気でしたが、高価だったため大切に使い続けられました。この「使い切る」文化が、裂織の発展を促したのです。

裂織の製作工程は、古布の再利用の工夫が凝縮されています。まず、端切れを縫い合わせて着物や布団に仕立て、擦り切れたら継ぎを当てます。布が完全に使い古せなくなると、縫い目を解いて端切れに戻し、それを裂いて糸状にし、麻糸を経糸として織り上げます。この工程で生まれた裂織が、使い古されると、今度は組み紐に作り替えられ、背負子などに再利用されました。最終的には、紐の端を燃やして虫除けにし、灰は土に返すという、徹底した資源の有効活用がなされていました。

古手木綿には様々な色の端布が混ざっているため、継ぎ接ぎや裂織の緯糸の組み合わせによって、独特の色合いと模様が生まれ、民芸品としての価値も高まりました。江戸時代後期には、北陸から近畿にかけても裂織が作られるようになり、これらの地域では木綿が比較的入手しやすく、染色技術も進んでいたため、東北地方のものよりも、より洗練された風合いと色合いの裂織が制作されました。

明治・大正時代以降：変遷と再評価

明治時代以降、貿易の盛んになり繊維が容易に入手できるようになると、裂織の需要は減少しました。しかし、昭和・平成時代に入ると、裂織の独特の風合いと芸術性が再評価され、創作活動として見直されるようになりました。現代では、古布だけでなく様々な素材を用い、染め方や裂き方に工夫を凝らした、複雑で美しいデザインの裂織が制作されています。

裂織：伝統と現代が織りなす芸術

裂織は、単なる古布の再利用という枠を超え、日本の伝統文化と現代の創造性が融合した、かけがえのない工芸品です。環境問題への意識が高まる現代において、資源を最大限に活用するサステナブルな取り組みとしても注目を集めています。その歴史と技術、そして芸術性を理解することで、裂織の魅力をより深く味わうことができるでしょう。

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