装輪戦車

装輪戦車とは

装輪戦車とは、大口径の主砲、特に戦車砲や対[[戦車砲]]を主武装とする装輪装甲車の通称です。このタイプの車両は、技術的な制約から性能が一定の範囲に収まるものの、運用や呼称は様々で、機動砲システム、戦闘偵察車、機動戦闘車、火力支援車両、突撃砲、対戦車車両、空挺戦車など、所属によって異なります。実際には「装輪戦車」という名称が正式に使われることは稀で、構造的な制約から戦車と同等に扱われることも通常はありません。

概要

装輪戦車は、偵察戦闘車型と空挺戦車型の2つの系統に大別されます。偵察戦闘車型は、威力偵察任務に投入されるため、6輪や8輪の大型車体を採用し、重量は10トン以上（多くは20トン以上）になります。主力部隊を支援する対戦車車両としての活動も考慮されています。一方、空挺戦車型は、空挺部隊や緊急展開部隊への機甲火力提供を目的とし、10トン未満の軽量な車両が多いです。

主力[[戦車]]と比較して、装輪戦車は自走で長距離を高速移動でき、輸送機による空輸も可能なため、戦略機動力に優れています。燃料や予備部品の所要量が少なく、兵站上の負担も少ないという利点もあります。しかし、軽量化のため装甲は機銃弾や小口径機関砲弾、榴弾の破片に耐える程度であり、装輪式のため不整地での機動性は劣ります。これらの理由から、主力[[戦車]]とは異なるカテゴリーの兵器と見なされます。

各国での配備状況

西ヨーロッパや南ヨーロッパ諸国では、この種の車両の配備が多い傾向があります。これらの国々は海外領土や植民地を多く保有しているため、遠隔地の警備隊や緊急展開部隊に空挺戦車型が配備されているほか、本土の主力部隊にも偵察戦闘車型が配備されています。グローバル化に伴い、非対称戦争や低強度紛争が増加したため、アメリカ陸軍は機動砲システム（MGS）、陸上自衛隊は16式機動戦闘車（MCV）を開発しました。中国陸軍の02式装輪突撃砲は、自走反担克砲（対戦車自走砲）とも呼ばれますが、砲兵科に配備され、突撃砲として運用されています。

歴史

小・中口径の火砲を搭載した装輪装甲車は、装甲戦闘車両の黎明期から第二次世界大戦期にかけて多数存在しましたが、対戦車ミサイルの発達により火砲を搭載しなくても高い対装甲火力が得られるようになったため、衰退しました。しかし、装輪式の走行装置は舗装路での高速走行性能が高い反面、反動の大きな火砲射撃時の安定性に欠けるため、対戦車ミサイルの登場後は強力な火砲を搭載する必要性は薄れました。しかし、軽装甲や歩兵といった目標に対して汎用性があり、緊急・遠距離展開能力を備えた装甲戦闘車両の需要は依然として高く、冷戦終結後は主力[[戦車]]の配備数減少、高価格化、大重量化が進んだため、その代替・補完として「大口径砲を搭載した装輪装甲車」が再び開発されるようになりました。

技術進歩により、戦車と同等の射撃精度を持たせることも可能になり、冷戦終結後は各国で「緊急・遠距離展開能力の高い汎用装甲戦闘車両」が求められるようになったため、「大口径砲を搭載し、戦車の代用戦力として多用途に用いることができる装輪装甲車」が注目を集め、「装輪戦車」という通称も生まれました。

実戦での運用

フランスは装輪戦車の実戦投入に積極的で、レバノン平和維持活動、湾岸戦争、西サハラ問題、ユーゴスラビア紛争、コートジボワール内戦、チャド内戦（トヨタ戦争）、アフガニスタン紛争、セルヴァル作戦などにERC-90やAMX-10RCを投入しています。アメリカ軍はイラクとアフガニスタンにストライカーMGSを実戦投入し、スラット装甲などの改修を行っています。

有用性と課題

走行装置

装輪戦車は、装軌式戦車に比べて車重が軽く、車輪式の走行装置は反動を十分に受け止めることが難しいため、発砲時に車体が大きく動揺し、射撃の精密性や連続射撃能力が劣ります。また、側方射撃時には転倒を防ぐために砲の威力を制限する必要があります。高度な火器管制装置と駆動・懸架機構を備え、戦車と同等の攻撃性能を目指すと、高価で複雑な車両となり、装軌式車両の「低価格」「機構が簡便で故障が少なく整備が容易」という利点を失う傾向があります。

装輪式であるため、高速巡航性能、低燃費による長い巡航距離、低騒音、土煙の巻き上げが少ないことによる被発見性の低さ、振動の少なさ、一部の走行輪の破損時にも走行が可能なこと、兵站への負担軽減、市民に対する威圧感の減少など、多くの利点があります。一方で、装軌式に比べて越壕性能、越堤性能、登坂性能、悪路踏破性能で劣り、信地旋回や超信地旋回ができないため、狭い場所での行動が制限されます。また、車高が高くなるため、被発見性や被弾率が高まるという欠点もあります。

装輪式である限り、走行装置の接地圧は装軌式よりも大きくなり、軟泥地での踏破性を確保するには車体重量を過度に増やすことはできず、装甲の厚さに制限があるため、耐弾性能が装軌式に比べて劣ります。

砲システム

対戦車車両としては、対戦車ミサイルを主武装とする装輪車両もありますが、対戦車ミサイルは飛翔速度で砲に劣り、誘導方式によっては発射車両が危険に晒されるという弱点があります。また、一般的な陸上戦闘では戦車のような厚い装甲の車両以外にも、軽装甲車両や歩兵、陣地を目標とする場合が多く、突撃砲に近い任務では、ミサイルよりも安価で多様な砲弾を使用できる戦車砲の方が適しています。装輪戦車に使用されている砲は、対戦車能力を重視する場合は105mm、火力支援能力を重視する場合は90mmや76mm程度であり、冷戦以前のものは低圧砲が多いため、現代の主力[[戦車]]の前面装甲を貫通できない可能性が高いです。しかし、近年ではロイヤル・オードナンスL7のようなフルスケールの戦車砲を採用するものが増え、105mm砲用APFSDSの性能も向上しています。イタリア陸軍のチェンタウロⅡは、現用主力[[戦車]]並みの120mm滑腔砲を装備しています。

車体

大重量・強反動の主砲を扱うため、重心を低く抑え、歩兵キャビンを持たない専用設計のものが多く、戦車砲弾薬が大きくかさばるため、十分な携行弾数と乗員以外のスペースを確保することが難しいという理由もあります。冷戦後、装甲戦闘車両のファミリー化が一般的になり、ベースモデルの装甲兵員輸送車に砲塔を架装した装輪戦車型も多くなっていますが、採用に至ったものはまだ多くありません。

評価

装輪戦車は、戦車に比べて攻防性能で劣りますが、突撃砲のように安価で多様な任務に対応できる車両です。戦略機動性・即応性に優れており、国土が広く舗装道路網が整備されている国では、戦車よりも早く到着して事態の悪化を防ぐ任務や、海外派兵における緊急展開部隊に使用されています。ベルギー陸軍のように、国情から戦車の運用を止め、装輪戦車の運用にシフトした軍もあります。

しかし、装軌式の戦車と同等の能力を求めると、大型で高価、複雑な車両となり、装輪式の車体の欠点を完全に克服することは難しく、費用対効果の面で疑問も多く残ります。冷戦終結時の脅威度減少の見込みが外れ、軍用車両全体の重防護化が進む中で、装輪装甲車自体の限界が見え始めており、アメリカ軍はストライカーMGSを早期退役させ、MPF軽戦車M10ブッカー戦闘車を採用するなど、装軌車への回帰の兆しも見られます。

近年は歩兵戦闘車でも大口径機関砲や100mm砲を装備する傾向にあり、装輪戦車の任務を担えるようになってきていますが、中国の11式105mm装輪突撃車、日本の16式機動戦闘車、イタリアのチェンタウロⅡなど、新規開発も継続して行われています。

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