裏松光世

裏松光世

裏松光世（うらまつ みつよ、1736年 - 1804年）は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した公家であり、有職故実の研究家としても名高い人物です。内大臣・烏丸光栄の五男として生まれ、裏松益光の養子となり裏松家を継承しました。法名は固禅（こぜん）と号します。

生涯

1736年、京都にて烏丸光栄の末子として誕生。12歳で裏松益光の養子となり、裏松家の後継者となります。その後、順調に昇進し従五位下に叙せられました。

思想家・竹内敬持（竹内式部）の門下生であったことが、彼の運命を大きく変えます。1758年、23歳の時に宝暦事件に連座し、幕府の忌諱に触れてしまいます。その結果、遠慮（籠居）処分を受け、2年後には永蟄居を命じられ、出家を余儀なくされました。法名を固禅と改め、30年にも及ぶ蟄居生活を送ることになります。

しかし、この蟄居期間中に、彼は平安京の研究に没頭し、不朽の名著『大内裏図考證』を著しました。1788年の天明の大火で内裏が焼失した際、その再建に際して彼の考証が参考にされたことは、特筆すべき功績です。この功績により、光世は勅命によって赦免され、錦と銀を褒賞として授与されました。

多くの著作を残し、1804年に67歳でその生涯を閉じました。彼の功績は後世にも認められ、1891年には従四位が追贈されています。

大内裏図考證

『大内裏図考證』は、平安京研究における第一級の資料として高く評価されています。平安京の区画制度、離宮、摂関の邸宅から始まり、大内裏の殿舎について詳細な解説が加えられています。古図や古記録を引用し、考証を重ねたその内容は、網羅的かつ周到です。

朝堂院に関する考証や、紫宸殿・清涼殿の調度に関する記述など、関連事項も詳細に網羅されています。天明の大火で皇居が焼失した後、光世の『大内裏図考證』が新造内裏の再建に大きく貢献しました。

ただし、大内裏図の一部には不備な点も指摘されており、尾張藩主徳川斉朝の命を受けた内藤広前によって補訂作業が行われました。広前は新たな附図を製作し、それが後に「故実叢書」に収録され、広く流布しました。

『大内裏図考証』は、明治期まで版本として刊行されず、写本として流通していました。藤貞幹も研究に協力し、大きな役割を果たしたとされています。東京大学史料編纂所には、光世自筆の稿本や写本が「裏松家史料」として所蔵されています。

橋本義則は、光世の研究努力を認めつつも、あまりに多くの古書を参照したため、内裏の歴史的変遷という視点が欠けていると指摘しています。その結果、過去に存在しない内裏の図が完成してしまったと批判しています。

系譜

父：烏丸光栄
母：不詳
養父：裏松益光
妻：不詳
男子：裏松恭光
女子：直子 - 正姫、度会房光室
* 女子：周子


裏松光世は、激動の時代に翻弄されながらも、学問への情熱を失わず、後世に多大な影響を与えた人物として、その名が記憶されるべきでしょう。

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