補中益気湯

補中益気湯（ほちゅうえっきとう）

補中益気湯は、漢方薬の中でも代表的な処方の一つであり、主に虚弱体質や疲労倦怠感といった「気虚」の症状に対して用いられます。近年では、アトピー性皮膚炎に対する効果も報告されており、医療機関で処方される医療用医薬品と、薬局などで購入できる一般用医薬品が存在します。

概要

補中益気湯は、中国の古典医学書である『内外傷弁惑論』（1247年）に記載されている補気剤の代表的な処方であり、「医王湯」という別名も持っています。この処方は、金元時代の名医、李東垣（杲）（1180年－1251年）によって『脾胃論』（1249年）に詳しく記されました。

当時の中国は戦乱が相次ぎ、民衆は飢えと疲労によって心身ともに疲弊していました。その上、熱性疾患が蔓延し、多くの人々が命を落としました。李東垣は、このような状況を打開するため、師である張潔古の処方に改良を重ね、補中益気湯を完成させたと伝えられています。

李東垣は、脾胃（消化器官および代謝機能）こそが人の健康維持に最も重要な役割を果たすと考えました。病気の回復、予防、そして他の臓器の機能正常化は、すべて脾胃の機能にかかっていると捉え、熱性疾患の治療においても、脾胃の治療を最優先すべきであるという考えのもと、補中益気湯を処方したのです。

補中益気湯の「中」は、漢方医学において腹部、すなわち消化器系を指します。「中を補う」とは、胃腸の働きを良くすることで体力を回復させるという意味を持ちます。具体的には、疲れ、食欲不振、胃弱、胃アトニー、夏バテ、長引く風邪、痔、そして病中・病後や手術後などの体力が低下した状態を改善する効果が期待できます。また、内臓全体を持ち上げるような作用もあるとされています。

組成

補中益気湯は、以下の生薬から構成されています。

人参 4.0g: 滋養強壮作用
白朮 4.0g
黄耆 3.0g: 滋養強壮作用
当帰 3.0g
柴胡 2.0g
陳皮 2.0g: 胃腸の働きを良くする
大棗 2.0g
生姜 2.0g: 胃腸の働きを良くする
甘草 1.5g
升麻 1.0g: のどの痛み、痔に効果

適応

補中益気湯は、以下のような症状や状態に用いられます。

虚弱体質
胃腸障害
疲労倦怠
病後の衰弱
食欲不振
寝汗
痔

相互作用

併用注意

以下の薬剤との併用により、偽アルドステロン症やミオパシーが現れやすくなる可能性があります。

甘草含有製剤
グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤

副作用

以下の副作用が報告されています。

重大な副作用

間質性肺炎
偽アルドステロン症
ミオパシー
肝機能障害
黄疸

その他の副作用

発疹
蕁麻疹
食欲不振
胃部不快感
悪心
下痢

アトピー性皮膚炎に対する有効性

日本全国の約110施設で行われた調査では、24週間の補中益気湯の服用により、皮疹と外用剤使用量の総合評価において、有効以上が88.7％という結果が報告されています。この調査では、大多数の症例で症状の維持以上の効果が期待でき、アトピー性皮膚炎が軽快する症例が多く観察されました。また、重篤な副作用は見られず、副作用とみられる事例もごくわずかでした。

注意事項

以下の項目に該当する方は、服用に際して注意が必要です。

医師の治療を受けている人
高齢者
妊婦又は妊娠の可能性のある人
生後3ヶ月未満の乳児
発疹・かゆみ等、アレルギーの既往歴のある人
1ヶ月以上服用しても症状がよくならない場合は医師に相談してください。

局方収載

第十五改正の日本薬局方から、上記構成生薬を乾燥エキス化した「補中益気湯エキス」（Hochuekkito Extract）が収載されました。

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