裳

裳（も）−十二単衣を彩る、奥深い歴史と変遷

平安時代の装束として知られる十二単衣。その中でも特に重要な役割を担うのが「裳（も）」です。本稿では、裳の構造、着用法、歴史、そして裳袴との関係性について、詳細に解説します。

裳の構造

裳は、主に以下の4つの部分から構成されます。

小腰（こごし）: 腰に巻く2本の帯。裳を固定する役割を担います。
大腰（おおごし）: 袴の腰板のような形状で、裳を支え、形を整える役割を果たします。
引腰（ひきごし）: 後ろに長く垂れる紐状の部分。裳のシルエットを美しく見せる役割があります。
裳本体: プリーツスカートのような形状で、裳の主要部分を構成します。

裳の着用法

現代の着用法では、唐衣を羽織った後に裳を腰に巻き付け、小腰、大腰、引腰を調整して固定します。小腰を前で結び、大腰を唐衣に当てて固定することで、単、袿、打衣、表衣といった他の衣を支える役割も果たしています。しかし、平安時代には、裳を先に着用し、その後から唐衣を羽織っていた可能性が高いとされています。

裳の歴史

平安時代以前

裳の起源については、日本の伝統的な下着である腰巻と、中国や朝鮮半島から伝わった褶（ひらみ）が合わさって誕生したという説が有力です。

『延喜式』によると、季節や身分によって、単の裳、袷の裳、表裳、下裳といった種類があり、着用方法も規定されていました。しかし、律令制の崩壊と国風文化の興隆に伴い、単の裳が主流となりました。また、当初は巻スカートのように着用されていましたが、平安中期頃から後ろに長く引きずるようになったとされています。

平安時代の裳は、八幅の生地を横につなぎ合わせて作られており、左右に短い頒幅（あがちの）という生地が付いているのが特徴でした。これは、巻スカートとして着用していた時代の名残とされ、裾を踏まないようにするための工夫と考えられています。しかし、下級の裳には頒幅がない場合もありました。頒幅は鎌倉時代には廃れ、伊勢神宮や熱田神宮の御神宝にその形式が僅かに残るのみとなっています。

平安時代の十二単衣において、裳は重要なポイントであり、身分が高い者や目上の者の前では必ず着用しなければなりませんでした。『枕草子』や『源氏物語』にも、裳に関する記述が散見されます。

鎌倉〜室町時代

鎌倉時代には裳の簡略化が進み、宮中においても、重ね袿に代えて、上臈女房は二衣、その他は薄衣を着用することが一般的になり、裳の着用は減少しました。鎌倉後期には、着脱が容易な掛帯（懸帯）式の裳が登場し、小腰をゆるく結んで肩にかけるようになりました。しかし、仕立てなどはそれまでのものと大きく変わることはありませんでした。応仁の乱以降、宮中の祭儀が行われなくなり、裳の形式や扱いの伝承が途絶えてしまいました。

江戸時代

徳川和子の後水尾天皇入内を機に、十二単の着用に関する研究が進み、裳の復元が行われました。しかし、復元された裳は、平安時代のものとは異なり、長さが極端に短く、床すれすれの長さになっていました。また、纐纈裳（こうけちのも）という束帯の別裾のような裳をさらに着用するようになりました。これらの裳は、肩から掛け、胸で結ぶ掛帯を用いて着用しました。この近世の掛帯は、幅が広く、着用者の身分によって異なる刺繍が施されるのが特徴でした。生地は必ず唐衣と同じものを使用していました。近世の掛帯式の裳は本体が短く、引腰が極端に長く、たるませて仮止めし、輪を作るのが慣習でした。

この江戸時代の十二単の復元は「寛永のご再興」と呼ばれましたが、平安時代のものには遠く及ばないものでした。その後、数回の修正を経て、天保12年に現在の形式に落ち着きました。この様式は、『春日権現験記』絵巻を主な資料として、その再現を意図したものです。

小腰の用法

裳を構成する重要な部分である小腰は、時代によって用法が大きく変化しました。当初は小腰は存在せず、引腰で裳を腰に結んでいました。装飾性が高まるにつれて、結びやすい小腰が別に作られるようになり、初めは取り外し可能なものでしたが、天保の復古様式によって、現在の縫い付け式になりました。

鎌倉時代以降、裳を簡略化することを「小腰をかけず」と表現するなど、小腰は「腰で結ぶ」ものから「肩にかける」ものへと変化していきましたが、「小腰」という呼称は変わりませんでした。

裳袴

中世の庶民女性が着用していた「裳袴（もはかま）」は、裳と同じ起源を持つとされています。明治18年（1885年）の華族女学校の開校を機に、女子教師や生徒の制服として広まりました。裳袴は、行燈袴、まち無し袴とも呼ばれます。

参考文献

栗原澄子『被服史から見た御神宝装束の基礎的研究』ブレーン出版 ISBN 4-89242-784-5

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