西川貞二郎

西川貞二郎：近江商人の精神を体現した革新的な起業家

西川貞二郎（1858年5月31日 - 1924年3月9日）は、明治時代に活躍した近江商人であり、八幡銀行（現滋賀銀行の一部）や帝国水産などを創業した起業家です。西川傳右衛門家の10代目として、その名を歴史に刻みました。

生い立ちと家督相続

1858年、近江国野洲郡江頭村（現在の滋賀県近江八幡市江頭町）で、井狩只七の次男として生まれた貞二郎は、幼名を定次郎と名付けられました。1864年、9代西川傳右衛門昌武の死去に伴い、西川家の後継者として迎え入れられます。西川家と井狩家は古くから姻戚関係にあり、この縁組は自然な流れでした。

養祖母いくと養母ゑいの手厚い養育を受けた定次郎は、寺子屋での手習いを始め、商家を継ぐ者として必要な漢学、能楽、謡曲なども学びました。1870年からは、家業の見習いとして松前（現在の北海道松前町）の支配人の下で丁稚奉公を経験し、商売の基礎を築きました。

1874年に松前から戻ると、先代傳右衛門の娘つやと結婚しますが、不幸にも翌々年に子が夭折し、妻つやも産後の病で亡くなります。その後、1877年に養母ゑいの妹であるすみと再婚しました。この頃、分家である西川善六家の家主吉輔から儒学を学んでいます。

多岐にわたる事業展開

1879年、西川家の当主名である「傳右衛門」への改名を試みますが、戸籍制度の関係で認められず、幼名との区別として「貞二郎」への改名が認められました。同年、北海道の経営体制を見直し、松前支店を廃止して忍路に総支店、高島に分店を開設しました。当時、7隻の千石船と1隻の洋型帆船を所有し、北海道と上方間の物資輸送を行っていましたが、徐々に洋型帆船への切り替えを進めました。

西川家に入った当時の資産は莫大で、貸付金だけで7万4465両（現在の価値で約3億円）に達し、その利子所得は年間2312両（約9百万円）もありました。

銀行設立への情熱

1872年に国立銀行設立の計画が持ち上がると、政府は民間の資産家に対し、為換会社設立を奨励しました。滋賀県でも大津為換会社（後の第六十四国立銀行）が設立されますが、近江八幡でも1877年、梅村甚兵衛、西川貞二郎らが中心となり、独自の銀行設立を目指します。しかし、大津銀行が八幡への支店出店を計画していたためか、設立は却下されました。

1880年に第六十四国立銀行八幡支店が開業し、八幡商人の利用で繁盛すると、貞二郎らは再び独自の銀行設立に向けて動き出します。1881年、八幡銀行が設立され、貞二郎は筆頭株主として頭取に就任しました。八幡銀行はその後、滋賀県内の有力銀行として発展し、1933年に百三十三銀行と合併して滋賀銀行となりました。貞二郎は八幡銀行創立10周年を前に、不良債権発生の責任を取り、頭取を辞任しました。

琵琶湖汽船、養鱒場、そして缶詰事業へ

1880年代には、琵琶湖の輸送会社設立や太湖汽船会社設立に関わり、湖上輸送の発展に貢献しました。1885年には、醒井養鱒場を県から譲り受け、大規模な拡張工事を行い、養魚池の増設や新型孵卵器の導入など、現在の養鱒場の基盤を築きました。丹生養魚場の養成魚は宮内省御用達となり、博覧会で数々の賞を受賞するなど、滋賀県を代表する景勝地として発展しました。

また、1886年には缶詰事業に乗り出し、琵琶湖産の鮒や海老、鮎、牛肉などを缶詰として製造しました。北海道にも缶詰工場を設け、蟹や鮭、鱈子などを缶詰として販売しました。特にタラバ蟹缶はアメリカにも輸出される人気商品となり、貞二郎は日本で初めて蟹缶を事業化した人物として知られています。

帝国水産の設立と挫折

政府の要請に応じ、大規模漁業の事業化にも着手します。1888年、帝国水産株式会社を設立しますが、莫大な資本が必要なため、三井家の出資を仰ぎました。しかし、三井家が撤退したため、貞二郎が全面的に資金支援を行いました。当初は千島樺太方面での海獣猟を中心に行っていましたが、国内需要が乏しく、経営は困難を極めました。1897年に会社解散を決意し、西川家は大きな損失を被りました。

その他の事業と投資活動

貞二郎は、日本銀行設立に際して出資したり、大阪商船の設立時に汽船を出資するなど、積極的に投資活動も行っていました。

政治家としての顔

1889年には八幡町議員に当選し、初代八幡町長に就任しました。地域社会の発展にも尽力しました。

引退と晩年

1898年に事業の一線から引退し、「鶴齢」という号を用いて和歌を嗜みました。また、能『日觸詣』を創作し発表するなど、文化的な活動も行いました。1924年3月9日、65歳で逝去しました。

人物評とエピソード

住友財閥の伊庭貞剛は、貞二郎を「近江商人の典型、彼をおいて他に其人なし」と評しました。

西川貞二郎は、近江商人の精神を受け継ぎながら、常に新しい事業に挑戦し続けた革新的な起業家でした。その功績は、今日の滋賀経済の発展に大きく貢献しています。

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