西常央

西常央：明治期の地方官僚、文化と学術の架け橋

西常央（にし つねのり、1848年 - 1900年）は、明治時代に活躍した地方官僚です。通称を常一朗といい、肥前国平戸藩（現在の長崎県平戸市）に生まれました。彼は、長崎県での警察官としてのキャリアをスタートさせ、その後、沖縄県で島尻、八重山、首里の各役所長を歴任しました。その間、琉球文学資料の収集や生物標本の採集に尽力し、後世の研究に貢献しました。

長崎県でのキャリア

西常央は、1870年に平戸藩庁の役人となり、その後、軍務を経て長崎県に帰任しました。県では、警察官として各地の警察署に勤務し、1877年の西南戦争にも従軍しています。その後、警部として県内各地の警察署で勤務しました。

沖縄県での活躍

1879年の琉球処分後、西常央は沖縄県に赴任し、警察官として、また役所の長として活躍しました。島尻役所長、八重山島役所長、首里役所長を歴任し、それぞれの地域で行政に携わりました。特に八重山島役所長時代には、自らマラリアの実験台になる覚悟で西表島に上陸したという逸話も残っています。彼は、風土病が小さな集落で多く発生する状況から、集落の合併によって予防できるという仮説を立てました。

文化財の収集と研究への貢献

西常央は、行政官としての仕事に加え、琉球の文化財の収集にも熱心でした。彼は、『おもろさうし』などの写本を収集し、バジル・ホール・チェンバレンなどの研究者に提供しました。これらの資料は、その後の琉球研究に大きく貢献しています。また、生物標本の収集も行い、採集した昆虫類などの標本を県に寄贈しました。これらの活動は、西常央が単なる行政官ではなく、文化や学術にも深い関心を持っていたことを示しています。

西常央の晩年と死後

西常央は、1896年に郡制施行に伴い、中頭郡長に任命されましたが、その後、県からの降格命令を受け、非職、免官となり、県属として事務職に従事しました。1900年、沖縄で亡くなり、島尻郡真和志村の共同墓地に埋葬されました。後に、洗骨・火葬され、平戸に移葬されました。西常央の死後、彼の収集した資料は、琉球大学や沖縄県立博物館などに分散して所蔵されており、今もなお研究に活用されています。

人物像と業績の評価

西常央は、当時の県令西村捨三を評価する一方で、他の知事を批判するなど、率直な性格の持ち主でした。彼は、行政官としてだけでなく、文化財の保護、研究活動への貢献を通じて、沖縄の歴史と文化に多大な貢献をしました。彼の業績は、今日の沖縄研究の基礎を築いたと言えるでしょう。

主な旧蔵資料

『沖縄声曲集』：定型琉歌集。チェンバレン写本は筑波大学附属図書館岡倉文庫に所蔵されています。
『琉球祭歌』
『混効験集』：古語辞書。チェンバレン写本は国立国会図書館に所蔵されています。
『おもろさうし』西本：安仁屋本系。チェンバレン写本は天理大学附属天理図書館に所蔵されています。

これらの資料は、戦後、琉球大学池宮正治研究室を経て、沖縄県立博物館、沖縄県公文書館、那覇市歴史博物館に分蔵されています。

八重山数え歌

西常央は、八重山島で、学校生徒に歌わせるための「八重山数え歌」を作らせています。

一つとや 人々うらやむ八重山に 気候閑に民豊か
二つとや 父母になづらう二大島 石垣島や西表
三つとや 宮良に大浜・石垣と 与那国合せて四郡制
四つとや 四方に名高き大川は 流れも清き宮良川
五とや いつも賑ふ成屋村 世界に轟く石炭坑
六とや 昔文亀の頃とかよ 多良間と与那国交換し
七とや 名蔵の村に程近き 川平の山に大和墓
八とや 八重山島は3千戸 人口1万4千余
九とや 此の島数は9つに 村数合わせて32
一○とや 所は石垣四箇の里 役所に警察学校所

西家について

西常央の本姓は藤原です。父は西秉常（のりつね）といい、和歌をたしなむ文化人でした。西常央の家系は、子孫が北九州市に移住しています。

西常央は、行政官として地方の発展に尽力しただけでなく、琉球文化の保護と研究に貢献した人物として、その名は後世に語り継がれています。

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