西欧の服飾 (14世紀)

14世紀の西欧服飾

14世紀の西欧、特にフランスを中心とした地域では、服飾に大きな変化が見られました。この時代の特徴を詳しく見ていきましょう。

服飾を取り巻く社会背景

14世紀に入ると、13世紀に成立した各種ギルドがさらに細分化され、生産性が向上しました。これにより、注文生産を上回る余剰生産が可能となり、都市に拠点を置くギルドの職人から製品を買い上げ、各地で販売する行商人が活躍するようになります。彼らは原料の調達も担い、職人は専門技術の向上に専念できるようになりました。

商人たちは生産者と消費者の間を取り持ち、利益を上げて勢力を拡大。封建領主、労働者、知識人とは異なる新たな階級を形成し、ファッション産業の重要な顧客となっていきました。富を蓄えた商人階級を牽制するため、贅沢品に関する取り締まりも頻繁に発令されました。

絹織物の生産地であったルッカが政変で衰退すると、職人たちがフィレンツェなど周辺都市に亡命し、絹織物の技術を広めました。フランスではリヨンが絹織物、アラスが毛織物の生産を担い、イングランドはウール原毛、シュワーベンは麻織物、フランドルは毛織物の拠点として発展。ブリュッセルはフランドルとの貿易中継地、クラクフは北ヨーロッパ交易の拠点として繁栄しました。毛織物の価格高騰により、庶民の間では木綿とウールの混紡やコーデュロイの衣装が普及しました。

13世紀末から14世紀にかけて、フランドルの女子修道院でボビンレースの原型が作られ始め、14世紀後半にはヴェネツィアでより装飾的な紐飾りが作られるようになりました。ボタンも13世紀頃から使用されていましたが、14世紀には前面をボタンで留めた衣装が登場しました。

男子の服装

14世紀初頭には、イタリアから「大胆なコット」を意味するコタルディという新式のコットが持ち込まれ、都市の若者の間で流行しました。コタルディは襟ぐりが広く、丈が短く、体にぴったりとした軽快な衣装でした。ショースも長くなり、腰から吊るすようになりました。

14世紀半ばには、プールポアン（ダブレット）という前開きの刺子仕立ての腰丈の衣装が流行。ショースは腰を覆うほど長くなり、プールポアンとショースをエギュイエットという紐で結び、股間にはブラゲット（コッドピース）を当てました。この組み合わせが、西洋男性服の基本となっていきます。

肩パッド、二の腕の膨らみ（ムフル）、胃のあたりの詰め物など、体型を誇張するファッションも流行しました。二の腕を膨らませたマオワトル（羊脚型）袖もその一つです。脚の貧弱な男性はふくらはぎに詰め物をすることもありました。男性の衣服が体の線を強調するようになり、男女の身体の違いがより意識されるようになりました。

身頃を二分割にするミ・パルティという装飾も流行しました。

庶民の服装

農民はシュミーズ（肌着）、ショース（長靴下）、ホーズ（ズボン）に、ゴネルというシンプルなチュニックを着用。冬場や風の強い日にはコットを重ね着したり、カラプイというフード付きの外套を着たり、麦わら帽やフェルト帽を被ったりしました。腰にはパニティエールというパンを入れる袋を巻き、財布などの様々な用途にも使用しました。

脚の保護のために革のレギンス型ゲートルを紐で留め、靴は14世紀半ばからプーレーヌ型という爪先が細長く伸びた革靴が広く用いられました。爪先の長さは身分によって異なり、庶民は足の半分、上流市民は足一つ分、騎士は足一つ半、高位の貴族は足二つ分、王族は足二つ半まで伸ばすことができました。

都市で働く職人や労働者は、シュミーズ、ショース、ホーズに、ジュペルという低い立ち襟の腰丈ほどのぴったりした上着を着ていました。フェルトの帽子やカラプイを被ることが多く、農民に比べて髪を伸ばすことが多かったようです。

上流市民の服装

裕福な商工業者は、貴族の着るような高価な流行の服装を仕立て、自分流に着崩して身に着けていました。贅沢禁止令は、彼らの度を越した贅沢に対する牽制でした。彼らが好んだのは、ペリソンというふくらはぎまでの長さの、頭からかぶるタイプの衣装でした。多くはケルメスなどで染めた豪華な毛織物でできており、貴族の衣装のように毛皮で縁を飾り、肩はパットで張り出していました。

腰を絞ったローブも好まれましたが、ゆったりとした丈の長い衣装は法律家や文筆業の人間に好まれていました。コルセ・サングルという腰丈で袖を膨らませた、ジュペルを豪華にしたような衣装も流行しました。

上流階級の服装

14世紀初頭には、コットに代わってコタルディというぴったりした衣装が着られるようになりました。シュールコーは衰退し、14世紀の後半にはウプランドという服が流行しました。これは、室内着としてゆったりした踝丈の衣装でしたが、後にふくらはぎ丈程度にまで短いものも登場しました。袖は長く詰まっているものもありましたが、多くは漏斗型の床に引きずるほど広がった袖でした。襟が高く顎のあたりまで詰まっており、袖や裾にダッギングという飾りの切り込みが入っていました。

体全体を覆うマントのウスのほか、脇のあいたものやクロシェというタイプのマントは騎士に流行しました。

シャプルという半球形で前に張り出したつばを持つ帽子が流行。アフィクという宝石を円形に配したブローチが帽子の飾りとして使われ、アンセーニュと呼ばれました。鳥の羽飾りも流行し、特にダチョウの羽が高額で取引されました。また、直接頭にかぶるか帽子の上に被る王冠型の飾りを、シャペレ（飾りなしのもの）、トレソワール（飾りありのもの）と呼びました。

女子の服装

14世紀からイタリアの影響で、コットの腰は細く紐締めされ、スカートには三角形の襠を入れて腰と裾広がりのシルエットを作り出すようになりました。こうしたファッショナブルなコットをコタルディと呼びました。コタルディは細身で体にぴったりしていたため、脱ぎ着がしやすいように襟ぐりが大きく開いていました。

コタルディの流行によって、くびれたウエストを誇示するために、シュールコーの袖がなくなり脇も大きく刳られたシュールコートゥベールという新式の衣装が流行しました。これは体全体を覆うタイトな外套の脇の部分を丸く切り抜いたもので、縁に毛皮を付けたものが一般的でした。

毛皮でできたごく短いタイトな胴着も、王族など身分の高い女性の盛装として登場しました。

高い円錐型のエナンという帽子もこの頃の流行を代表するものでした。

庶民の女子の服装

流行を反映して、デコルテは広くウエストは狭くなっていく傾向が見られました。シュミーズとショースの上にコットを着て、粗い毛織のベールもしくはウィンプルを被りました。庶民の女性たちの日曜日だけのおしゃれとして付け袖というものがあり、刺繍などを施したアームカバーのようなもので、取り外し可能の袖として扱われていました。

上流階級の女子の服装

貴婦人のコタルディには、向かって左側に夫の紋章、右側に父親の紋章を刺繍やアップリケであしらったものがありました。コタルディの袖はきっちりとボタン留めした長袖のものもありましたが、多くは五分袖から七分袖で袖口のところにティペットという垂れ布を付けていました。

台形に刳ったデコルテにローウエストも流行しましたが、襟元が大きくＶ字に開いており胸下で刺繍を施した布帯を締める極端なハイウエストも同時期に流行しました。こうしたドレスに締めるベルトはベルベットなどに刺繍を施し、金の金具を付けるなど豪華なものでした。胸元が開いたタイプは襟元に毛皮がついており、胸元から腰に掛けて刺繍を施した逆三角形の覆いがついていました。

マンテル・ダヌールというマントを羽織り、髪型は頭の両側で三つ編みにした髪を丸くまとめるのが流行。これをクリスピンというヘアネットで覆ったり、屋外などではヴォワール・アン・ギンプ（垂れ付き頭巾）などを被りました。

エスコフィオンというコルノ（総督および総督夫人が被った高い帽子）の変形のような帽子が流行し、二つの角があるものやハート形のものなど様々な種類がありました。その変種とも言えるエナン帽はシリアから持ち込まれたものと言われ、高い円錐型で先端からヴェールを垂らしていました。広い額がもてはやされ、帽子から髪がはみ出ないように前髪の除毛などが行われました。

このように、14世紀の西欧服飾は社会の変化とともに大きく変容を遂げた時代でした。

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