西部内陸海路

西部内陸海路：白亜紀に存在した巨大な内海

西部内陸海路は、白亜紀中期から後期にかけて北アメリカ大陸を二分していた広大な内海です。別名、白亜紀海路とも呼ばれ、現在の北米大陸の中央部を南北に縦断し、メキシコ湾から北極海まで繋がっていました。最盛期には、水深760メートル、幅970キロメートル、全長3,200キロメートルを超える規模を誇りました。

起源と地質

この海路は、ファラロンプレートが北アメリカプレートの下に潜り込むことによって生まれました。プレートの沈み込み角度が浅くなる現象（フラットスラブ沈み込み）により、大陸に隆起が発生し、海水面が上昇。北極海とメキシコ湾からの海水が内陸部で合流し、広大な内海が形成されました。

初期の段階では、北極海から南下した海水が Mowry Sea と呼ばれる海を形成。その後、メキシコ湾からの海水が合流し、完全に繋がった海路となりました。西部内陸海路は、ロッキー山脈からアパラチア山脈まで広がり、幅は約1,000キロメートルに及びましたが、水深は最大でも800-900メートルと比較的浅い海でした。

ロッキー山脈からの堆積物が供給され、西部内陸海路の西側は変動が大きく、堆積物の影響を受けやすい地形でした。

カンザス州には、西部内陸海路が温暖な熱帯環境であり、石灰質の藻類が豊富であったことを示す炭酸塩堆積物が見られます。Monument Rocks はその代表例で、チョーク質の地層が風化してできた奇岩がそびえ立っています。

白亜紀後期には、西部内陸海路は何度か無酸素状態に陥り、底層の酸素が欠乏し、水質が悪化しました。

白亜紀末には、ララミー変動と呼ばれる造山運動によって海路は徐々に縮小し、南へと後退しました。この時期の海路は Pierre Seaway と呼ばれています。暁新世の初期には、まだ一部が Mississippi Embayment に残っていましたが、その後完全に消滅しました。

動物相

西部内陸海路は、多様な海洋生物の宝庫でした。頂点捕食者であったモササウルス（全長18メートルに達する巨大な海棲爬虫類）や、プレシオサウルスなどの首長竜が生息していました。その他にも、クレトキシリナやスクアリコラックスといったサメ、パキリゾドゥスやシファクティヌスなどの硬骨魚類が繁栄しました。

無脊椎動物では、アンモナイトやベレムナイトなどの軟体動物、そして石灰質の殻を持つ円石藻や有孔虫などのプランクトンが豊富に存在しました。

また、西部内陸海路は初期の鳥類の生息地でもありました。水中を泳ぐことに特化したヘスペロルニスや、アジサシに似たイクチオルニスなどが生息していました。空には、イクチオルニスの他にニクトサウルスやプテラノドンのような翼竜が舞っていました。

海底には、巨大な二枚貝であるイノセラムスが生息していました。イノセラムスの殻は厚く、真珠光沢を帯びていました。古生物学者は、その巨大さは濁った海底に適応し、酸素濃度の低い水中で生き残るために発達したと考えています。

西部内陸海路は、白亜紀の北アメリカ大陸における生物多様性を育んだ重要な環境でした。その痕跡は、現代の地層や化石の中に今も残されています。

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