見沼の竜伝承

見沼の竜伝承

見沼の竜伝承は、かつて埼玉県、現在のさいたま市周辺に広がっていた見沼と呼ばれる広大な沼にまつわる伝承群です。見沼区、緑区、岩槻区、川口市など、広範囲にわたる地域で様々な物語が語り継がれています。

主な伝承

見沼の竜伝承には、多様なバリエーションが存在します。代表的なものをいくつか紹介します。

見沼干拓と竜神の怒り

江戸時代、徳川吉宗の時代に見沼の干拓が行われました。紀州藩から派遣された井沢弥惣兵衛が干拓の指揮を執ることになった際、竜神が現れ、住処を奪われることへの悲しみを訴え、工事の一時中断を求めました。しかし、弥惣兵衛は工事を強行し、様々な災いが起こりました。弥惣兵衛自身も病に倒れましたが、竜神の化身である女性が現れ、病を治す代わりに工事の中止を懇願しました。弥惣兵衛は片柳の万年寺に避難することで災いを逃れ、工事は進展しました。しかし、万年寺で葬儀を行った際、棺が暴風に巻き上げられるという怪異が発生。弥惣兵衛が万年寺を離れると、怪異は収まったと伝えられています。

伊奈氏と竜神の祟り

見沼干拓を支援した関東郡代の伊奈氏は、見沼の竜神「オタケ様」の祟りに苦しめられました。災いが続いたため、氷川女体神社の池に竜神が移ったことを知った伊奈家の家老が神社に参拝したところ、祟りは治まったとされています。

印旛沼への逃避行

川口市差間には、見沼干拓後の後日談が伝わっています。ある日、人力車の車夫が美女を乗せて千葉方面へ向かいましたが、印旛沼付近で美女が忽然と姿を消しました。座席は濡れており、植物のような臭いがしたことから、見沼を追われた大蛇が美女に姿を変えて印旛沼へ移り住んだと考えられています。

千住大橋の美女

東内野では、馬を連れた農夫が千住大橋付近で美女に出会い、見沼まで送り届けたという話が残っています。農夫は礼として包みを受け取りましたが、帰宅後に開けると蛇の鱗が入っていました。これは、印旛沼に移り住んでいた見沼の主が、故郷を懐かしんで一時的に戻ってきたものだと解釈されています。

赤山城の竜神

伊奈氏の居城であった赤山城の庭園の池に、山蛇が現れ、見沼の竜神であると名乗り、住処を奪われた恨みから伊奈家に災いをもたらすと告げたという伝承も存在します。

国昌寺の竜

国昌寺（さいたま市緑区大崎）には、見沼の竜が暴れるのを鎮めるため、左甚五郎に彫刻された竜を山門に納めたという伝承があります。他にも、「釘付けの竜」や「国昌寺の開かずの門」といった伝承が残されています。

竜を祀る神社

これらの伝承に登場する竜を祀る神社として、「見沼竜神社」があります。見沼竜神社は、氷川女体神社（氷川女體神社）の境内に鎮座しています。

現代における竜伝承

見沼の竜伝承は、現代においても様々な形で影響を与えています。

つなが竜ヌゥ: さいたま市は、見沼の竜伝承をモチーフにしたマスコットキャラクター「つなが竜ヌゥ」を制作しました。
映画「あやかしの世界」: 2013年には、見沼の竜をはじめとする埼玉県に伝わる妖怪を題材にした映画『あやかしの世界』が制作され、上映されました。

見沼の竜伝承は、地域の人々の生活や文化に深く根ざした、貴重な文化遺産と言えるでしょう。

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