覚音寺 (大町市)

覚音寺は、長野県大町市八坂に位置する寺院で、現在は金峯山修験本宗に属しています。境内には本堂、観音堂、庫裡などが残されており、特に観音堂は仁科三十三番札所の二十三番札所として知られています。

歴史

覚音寺の本尊である千手観音立像（像高約168センチメートル）は、その胎内から昭和10年（1935年）の解体修理の際に、紙本摺仏千手観音像18枚、白銅製円形和鏡1面、そして表裏に墨書のある木札が発見されました。この木札の墨書銘によれば、治承3年（1179年）に仁科盛家とその縁者によって施入されたものであり、当時は「信州安曇郡御厨藤尾郷」に属し、「覚薗寺」と呼ばれていたことがわかります。また、快尊上人が勧請して建立したとされていますが、正確な開創年代は不明です。

この木札の発見は、「信州」という呼称が信濃国を指す言葉として初めて使われた例の一つとしても知られています。また、本尊の脇侍として安置されている持国天立像（建久5年銘、像高約176センチメートル）と多聞天立像（建久6年銘、像高約160センチメートル）も、本尊とともに重要文化財に指定されており、その歴史的価値は非常に高いと言えるでしょう。

覚音寺は、当初は戸隠山の天台宗勧修院の隠居寺として建立されましたが、次第に衰微していきました。江戸時代に入ると、何度か補修が行われ、文禄4年（1595年）には安曇郡の国衆である細萱河内守長知によって観音堂が再興されました。その後、広津の成就院2世によって曹洞宗に改宗されたと伝えられています。宝永7年（1710年）には、弾誓寺の木食山居故信法阿によって本尊が修復されました。そして、昭和23年（1948年）に寺号を取得し、金峯山寺の末寺となりました。現在の観音堂は、明治45年（1912年）の類焼後に再建されたものです。

文化財

覚音寺は、多くの文化財を所有しており、その中でも特に重要なものは以下の通りです。

重要文化財
木造千手観音立像（藤尾観音堂安置）: 像内納入木札に治承三年十一月廿八日とあり、建立年代を知る上で非常に貴重な資料となっています。
附 銅鏡菊ニ双雀文様 1面: 千手観音像の胎内から発見された銅鏡で、当時の文化を知る上で重要な資料です。
木造持国天立像・多聞天立像: 本尊の脇侍として安置されており、共に重要文化財に指定されています。これらの仏像は、建立当時の姿を今に伝える貴重なものです。

覚音寺は、長い歴史の中で様々な変遷を経てきましたが、その都度、地域の文化や信仰の中心として重要な役割を果たしてきました。現在も、多くの参拝者が訪れる場所として、その歴史と文化を伝えています。

参考資料
『信州の文化シリーズ 寺と神社』1981年 信濃毎日新聞社
『探訪 信州の古寺 天台宗・真言宗』1996年 郷土出版社

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