親不知

親不知：険しき道と、人々の挑戦の歴史

新潟県糸魚川市の西端、日本海に面した断崖絶壁が連なる地域、それが親不知です。正式名称は親不知・子不知といい、古くから交通の難所として知られてきました。飛騨山脈の日本海側の端に位置し、その険しさは、親が子を、子が親を顧みる暇もないほどであったことから名付けられたという説があります。

親不知の地形と歴史

親不知は、飛騨山脈の北端が日本海の浸食によって生まれた断崖絶壁と、その間に細く続く砂浜からなります。崖の高さは300～400メートルにも及び、波の荒い日本海に面していることから、古くから越後と越中の往来を困難にする最大の難所の一つでした。旅人たちは波間を見計らいながら狭い砂浜を通り抜け、大波が来れば洞窟などに避難する必要がありました。多くの犠牲者が出たとも伝えられています。

その険しさから、軍事的な要衝としても機能していました。承久3年（1221年）の承久の乱では、朝廷軍が親不知西側の市振で防衛線を展開し、北条朝時率いる軍勢を迎え撃ちましたが、激戦の末敗北しています。

江戸時代には参勤交代が始まり、加賀藩主もこの難所を通行しました。通行の安全を確保するため、富山県側から数百人の波除人夫が動員され、人垣を作って波濤を防ぎながら通行を支援しました。

近代化と親不知

明治時代、明治天皇の巡幸を機に、親不知の危険性が改めて認識され、新道の開削が決定されました。1882年から工事が始まり、1883年には断崖を削って北陸街道（現在の国道8号）が完成。1912年には北陸本線（現:えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン）が開通しました。

しかし、国道8号はその後も改良工事が続けられました。昭和8年から昭和11年にかけて、子不知地区と親不知地区で道路改築が行われ、幅員が拡大。1958年には駒返洞門が完成し、1967年には全線が2車線の本格的な自動車道として完成しました。現在でも、歌バイパスの整備など、更なる改良工事が行われています。

鉄道も同様で、防災対策や安全性の向上が目的でルート変更が行われており、旧線や旧道の一部は現在でも残されています。1971年には国道8号から栂海新道が開通し、標高0メートルから北アルプスの縦走が可能な登山道の玄関口となりました。

1988年には北陸自動車道が開通。用地買収の問題から、親不知IC付近は海上高架橋によって建設されました。この高架橋からは、断崖絶壁と砂浜、岩礁、洞窟が織りなす海岸美を堪能することができます。

2015年には北陸新幹線が開通しましたが、こちらは山側のトンネルを通過しています。

親不知の地名と地質

親不知という地名は、その険しさから生まれたという説が有力です。一方で、壇ノ浦の戦いの後、越後国に逃れた平頼盛の妻が、この地で子供を波にさらわれたという伝説も残されています。

地質学的には、親不知は3億5000万～2億6000万年前の海洋プレートの沈み込みによって形成された付加体と呼ばれる地質で構成されています。親不知地区は火砕岩類、子不知地区は花崗岩類からなり、歌地区には古生代の苦鉄質火砕岩や石灰岩なども見られます。

親不知は、険しい地形と豊かな歴史、そして美しい景観が調和した、独特の魅力を持つ場所です。数々の困難を乗り越えて整備された道路や鉄道は、人々の努力と自然への挑戦の歴史を物語っています。現在も、その険しさは残しつつも、多くの観光客を魅了し続けています。

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