観世長俊

観世 長俊

観世 長俊（かんぜ ながとし、1488年頃 - 1541年）は、戦国時代に活躍した著名な猿楽師であり、能作者としても知られています。彼は父である小次郎信光の道を引き継ぎ、観世座の「脇之為手」として、能界に大きな影響を与えました。主な作品には「江野島」「大社」「正尊」「輪蔵」などがあり、それぞれが独自の魅力を持つ作品です。長俊は弥次郎とも称され、彼自身の経歴や作風が注目されています。

経歴

長俊は、1488年（長享2年）頃、父・信光のもとに生まれました。信光は3代目観世大夫・音阿弥の子であり、観世座の大鼓方役者として数多くの能を創作し、その中で特に風流性の豊かな作品に定評がありました。長俊は観世座の脇之為手として活動し、若いころから才能を発揮しました。

彼は永正3年（1506年）、まだ19歳の時に「老子（重耳）」を自身の力で創作しています。この作品は、父・信光の添削を受けながら完成させたものであり、長俊の能としての確立を示す重要な一歩となりました。その後、成人した彼は伯父や同名の従兄たちとともに脇之為手としての地位を築きました。

長俊は能の作品だけでなく、謡の改正にも関与し、高い技術を持つ謡の名手でもありました。1541年までは活動していたとされるものの、死去に関する記録は不確かで、胃ガンを抱えながらも舞台に立ち続けたとの伝承が残されています。

子息とその影響

彼の嫡男である小次郎元頼もまた、脇之為手として名を馳せ、永続的な謡本が数多く残されています。元頼の子孫には、早世した弥次郎の他、脇方から謡専門に転向した又九郎や、観世流の8世大夫元尚に嫁いだ娘がいます。このように、長俊の家系は能楽界に影響を与え続けました。

また、観世座の大鼓方として名を馳せた彦右衛門豊次に娘が嫁ぎ、その孫が能の資料編纂者として知られています。この脈々と続く家族の繋がりは、長俊の業績を今でも感じさせます。

能作者としての業績

長俊は、能の作曲家としても多くの作品を残し、彼の作品はさまざまなジャンルにわたります。典型的なものは次のとおりです。

• - 女神物：厳島
• - 異神物：大社
• - 荒神物：江野島、異国退治
• - 老精物：花軍
• - 斬合物：正尊、親任、広元、岡崎（花小汐）
• - 特殊物：輪蔵、老子（重耳）

特に注目すべきは、彼の主な作品に含まれる「江野島」や「正尊」といった作品が挙げられます。「江野島」は、漁師や龍神にまつわる神話的要素が展開され、視覚的な美しさと物語性が融合したものです。「正尊」は『平家物語』に基づく作品で、武士同士の争いを描き出しています。また、「河水」などの作品も大規模な演出が施され、演劇における視覚的要素の重要性を強調しています。

作風と評価

長俊の作風は、視覚的で装飾性に富んでいると評されています。彼の作品には、演技に必要な美術品や仕掛けが多く取り入れられていて、観客を魅了する要素が豊かです。しかし、彼の作能はしばしば借用された論文や物語に基づくものが多く、創造的なオリジナリティに欠けるとの批判もあります。そのため、近代以降の評価は彼の父・信光に対してあまり高くはありませんでした。

西野春雄はその一方で、長俊の作品には近世演劇の萌芽が感じられると評価し、演劇史の中でも見逃せない重要な存在であるとの見解を表明しています。

長俊は、能の作家としては最後の名手とも言われ、彼の後も多くの能が作られましたが、それらの多くは定着することなく自然淘汰されていきました。歴史的な意味合いからも、観世長俊は能楽界において特異な立ち位置を占める存在です。

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