角隠し

角隠し（つのかくし）

角隠しは、日本の伝統的な婚礼の儀式において、花嫁が頭部に着用する装飾的な被り物です。特に、文金高島田と呼ばれる日本的な高い髷を結った髪型に合わせて使用されます。主に白い絹で作られた帯状の布で、長方形の形状をしており、これを額の上から被せて後頭部の髷の部分で固定する形で着用します。

この角隠しは、白無垢、色打掛、引き振袖といった和装の婚礼衣装のいずれにも合わせることができます。ただし、近年では白無垢には頭部全体を覆う楕円形の「綿帽子（わたぼうし）」が選ばれることが多く、角隠しは色打掛に合わせるスタイルが一般的になっています。披露宴などでお色直しをする際には、綿帽子と角隠しの両方を着用する場合も見られます。

目的とされる事柄

角隠しを着用する目的については、歴史的な由来が諸説あって明確ではありませんが、現代において俗説としてよく語られるものがいくつかあります。

一つは、女性が嫁入りにあたり、怒りの感情や自我を象徴するとされる「角」を隠すことで、これから嫁ぐ家に対して従順でしとやかな妻となる決意や願いを示すためという解釈です。

もう一つは、かつて女性が強い嫉妬心に駆られると鬼になると信じられていた時代に、そうした変身を防ぐためのおまじないとして用いられたという説です。

由来に関する諸説

角隠しが広く普及したのは江戸時代後期から明治時代にかけてとされていますが、その起源については複数の説が存在し、どれが真実であるかは定まっていません。

1. 桂包（かつらつつみ）/桂巻（かつらまき）起源説: 室町時代に描かれた『七十一番職人歌合』にも見られるように、当時米や餅を売る女性たちは、商品を頭に乗せて運ぶ際に、髪が汚れるのを防ぐ、あるいは商品を髪で汚さないようにするために、白い布で頭を覆う「桂包」や「桂巻」という風習がありました。この被り物が、婚礼用の角隠しの原型になったのではないかとする説です。
2. 被衣（かづき）起源説: 鎌倉時代以前、特に高貴な身分の女性が外出する際に、頭の上から体全体をすっぽりと覆うように、袿（うちぎ）や薄い衣を袖を通さずに被る「被衣」という習慣がありました。これが室町時代には小袖の襟を前に下げて被る形に変化し、後の角隠しへと繋がったとする説です。
3. すみかくし起源説: 浄土真宗の慣習において、女性が寺院に参拝する際に、髪の生え際（これを「すみ」と呼んだ）を隠すために黒い布で頭部を覆う「すみかくし」というものがありました。これが後に婚礼の際にも用いられるようになり、名称が「角隠し」に転じたとする説です。
4. 歌舞伎役者の模倣説: 江戸時代後期に歌舞伎役者が舞台で着用した衣装や装いを、一般の女性たちが真似をして広まったという説も存在します。

これらの説は、角隠しが単なる装飾ではなく、古来より頭部を覆う様々な習慣や信仰と結びついていた可能性を示唆しています。

関連事項

結婚式: 角隠しが着用される儀式の場。
綿帽子: 白無垢に合わせて着用されることの多い、別の伝統的な婚礼用被り物。
日本髪: 角隠しが着用される際に結われる伝統的な髪型、特に文金高島田を指す。
トヨタ・クラウンコンフォート: かつて花嫁を送迎する際に、角隠しが乗り降りの妨げにならないよう、後部座席の左側屋根が開閉する「スイングルーフ」というオプションが設定されていた車種。これは角隠しのボリュームがかつて非常に大きかった名残とも言えます。

角隠しは、日本の婚礼における伝統と文化を象徴する重要なアイテムの一つです。

もう一度検索