設楽貞雄

設楽貞雄（しだらさだお）は、元治元年（1864年）7月3日に生まれ、昭和18年（1943年）12月15日にその生涯を閉じた、明治後期から昭和初期にかけて関西地方で活躍した建築家です。特に、大阪の新名所として計画された新世界や、その中心施設であった初代通天閣の設計に携わったことで、その名を知られています。

生涯と経歴

設楽貞雄は、元治元年（1864年）に陸奥国安達郡本宮町（現在の福島県本宮市）で生を受けました。父は二本松藩の代官を務めた武士、設楽弥兵衛貞教でしたが、戊辰戦争において戦死しています。

明治21年（1888年）、設楽は工手学校（現在の工学院大学）造家学科の第一期生として入学。片山東熊や藤本壽吉らが教務主任を務める環境で建築を学び、翌明治22年（1889年）には同校を卒業。卒業生19名中、二番目の優秀な成績を収めています。

卒業後、明治24年（1891年）に日本土木会社（現・大成建設）に入社し、華族女学校や東京郵便電信局などの建設工事に携わりました。翌明治25年（1892年）には宮内省内匠寮に移り、帝室京都博物館の現場監督を務めます。

明治29年（1896年）、桑原政工業事務所に招かれ、山口半六の下で働くようになり、明治32年（1899年）には山口半六事務所の支配人兼所長代理に就任します。さらに明治33年（1900年）からは山陽鉄道株式会社の建築係長として、同社の建築部門を統括しました。

独立は明治40年（1907年）、神戸建築事務所（後に設楽建築工務所と改称）を設立します。この独立後の時期に、大正元年（1912年）に開業した大阪の新世界娯楽場計画に大阪土地建物会社の顧問として参画し、そのシンボルであった初代通天閣（現在の塔とは異なります）の計画・設計を手がけました。この鉄塔構造の設計にあたっては、鉄道技師であった遠縁の八田嘉明を構造担当として迎え、技術的な側面を補強しています。

昭和3年（1928年）にはヨーロッパを視察して建築の知見を深め、昭和8年（1933年）に設楽建築工務所を閉鎖しました。建築界への貢献は続き、昭和11年（1936年）には日本建築協会の副会長を務めています。

設楽貞雄は、昭和18年（1943年）12月15日、自身が暮らした神戸・須磨の邸宅にて逝去しました。

作風の特徴

設楽貞雄の建築様式は、そのキャリアを通じて変化が見られます。

初期の作品は、当時ヨーロッパで流行していたセセッション様式の影響が強く、斬新で個性を打ち出した造形が特徴でした。大阪堂島米穀取引所や有沢眼科医院などがこの時期の代表例ですが、その大胆さゆえに、時に破綻寸前のような危うさを感じさせる側面もありました。しかし、新世界通天閣のように、専門家との協業によって構造的な課題をクリアするなど、重要なプロジェクトでは要所を押さえた手堅い仕事ぶりも見せています。

大正期に入り、名古屋高等工業専門学校や京都帝国大学で学んだ建築家たちが設楽建築工務所に入所するようになると、事務所全体の設計傾向も変化します。この頃からは、ルネッサンススタイルをはじめとする古典様式に基づいた、より堅実で落ち着いたデザインの建築が多く手がけられるようになりました。内田汽船本社や旧三十八銀行本店などがこの時期の作品として挙げられます。

住宅建築においても、設楽は多様なスタイルを展開しました。初期の木造住宅、例えば大日本セルロイド網干工場外国人技師住宅などは、セセッションの要素を取り入れたコロニアルスタイルでした。特に村野山人邸では、近年発見された写真から、洋館内部の階段、暖炉、家具などにアールヌーボーのデザインを積極的に採用していたことが明らかになっており、意欲的な試みであったことが伺えます。大正期には、セセッションの色彩を前面に出した大規模な洋館（旧岡崎家住宅、西尾家住宅など）や、鉄筋コンクリート造で和洋を折衷させた住宅（沢野邸）、さらには御殿のような純和風の邸宅（沢田邸、内田信也邸和館など）まで、幅広いレパートリーを手がけています。

設楽貞雄は、工手学校の卒業生の中でも特に顕著な活躍と多くの業績を残した人物として評価されています。

主な作品（一部）

設楽貞雄は数多くの建築を手がけましたが、残念ながらその多くは現存していません。以下に代表的な作品の一部を挙げます。

- 大阪堂島米穀取引所（大阪市、1910年、現存しない）
- 京都電灯本社屋（京都市、1912年、現存しない）
- 神戸電灯本社屋（神戸市、1912年、現存しない）
- 通天閣（初代）（大阪市、1912年、現存しない）
- 聚楽館（神戸市、1913年、現存しない）
- 千日土地楽天地（大阪市、1914年、現存しない）
- 内田汽船本社（神戸市、1917年、現存しない）
- 西尾家住宅（神戸市、1920年、現存）
- 旧武田（旧後藤）邸（神戸市、1920年代、現存）
- 長瀬商店（大阪市、1928年、現存）

これらの作品リストからも、彼の活躍が関西圏の都市景観形成に大きく貢献したことが分かります。

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