詩・現実

『詩・現実』の概要

『詩・現実』は、昭和初期に発行された文芸雑誌で、1930年に創刊されました。この雑誌は、当時の詩壇における新たな視点を描くことを目的としており、特に「現実」に基づく文学を探求した内容が特徴です。

創刊の背景

この雑誌は、元々1928年に春山行夫を中心として創刊された『詩と詩論』の寄稿者の一部が、不満を感じて新たに立ち上げたものです。具体的には、春山らのフォルマリズム的なアプローチや、現実から離れた傾向に対する不満が背景にあります。こうした経緯から、誌名には「現実」が冠されることとなり、より具体的で現実に根ざした詩の探求が行われました。

創刊号の内容

創刊号では、淀野隆三や北川冬彦らが中心となって寄稿しました。有名な論考としては、神原泰による「超現実主義の没落」や田辺耕一郎の「プロレタリア詩当面の諸問題」があり、また翻訳作品として、北川冬彦と淀野隆三によるピエエル・ナヴィルの作品や、伊藤整によるジェイムス・ジョイスに関する考察も収められています。特にナヴィルの論文では、超現実主義が革命に参加するべきだという強い主張が展開されています。

雑誌の影響と発展

「詩・現実」は、その後も様々な詩人や批評家の作品を掲載し続けました。特に第2号からは、伊藤整、永松定、辻野久憲による連載版の「ユリシイズ」が始まり、これが1931年から1933年にかけて第一書房から刊行されることになります。この連載は、海外文学の研究や翻訳に新たな方向性を与え、後に伊藤整が編集した『新文学研究』に繋がっていくのです。

当時の詩人たち

この時期には、横光利一や佐藤春夫、三好達治、丸山薫、葬山修三、滝口武史、千田光、ユウジン・ジオラス（伊藤整訳）など多くの詩人も参加しており、それぞれが独自のスタイルで詩を発表しました。彼らは、社会の現実に対極するような詩だけでなく、時には実験的で前衛的な詩も手掛け、当時の文学界に新風を巻き起こしました。

参考文献

この雑誌の影響や文学史における位置づけに関する詳細は、平野謙の『昭和文学史』や高見順の『昭和文学盛衰史』に詳しく記されています。これらの文献を通じて、当時の文芸運動や詩の展開をより深く理解することができます。

『詩・現実』は、昭和初期の文学界において重要な役割を果たし、今もなお多くの文学研究者や読者にとって興味深い存在として残り続けています。

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