北川冬彦

北川冬彦：詩と映画の革新者

北川冬彦（1900年6月3日 - 1990年4月12日）は、日本の詩人、映画評論家であり、小説家としても才能を発揮しました。本名を田畔忠彦といい、その生涯は文学と映画の革新を追求するものでした。

生い立ちと青春時代

滋賀県大津市で生まれた北川は、幼少期を父親の仕事の関係で満州で過ごし、軍国主義的な教育を受ける旅順中学校で寄宿舎生活を送りました。1919年には第三高等学校（現・京都大学総合人間学部）に入学し、フランス語を学びました。柔道にも打ち込んでいた北川は、1921年、新京極のカフェで同志社大学の学生たちと衝突した際、その様子を見ていた梶井基次郎と知り合います。この出会いは、後の彼の文学活動に大きな影響を与えました。

文学活動の開始

1922年に東京帝国大学法学部フランス法科に入学した北川は、詩作を本格的に開始します。1924年には、安西冬衛らと詩誌『亜』を創刊し、新散文詩を発表しました。翌年には自費出版で第一詩集『三半規管喪失』を刊行し、横光利一から高い評価を受けました。その後、文学部仏文科に再入学し、帝大文芸部の同人となり、多くの文学者と交流を深めました。梶井基次郎の同人誌『青空』にも参加し、彼の作品「檸檬」に感銘を受けました。

新散文詩運動と詩風の確立

北川は、春山行夫、西脇順三郎、北園克衛らとともに詩雑誌『詩と詩論』を創刊し、新散文詩運動を推進しました。1929年に発表した詩集『戦争』は大きな注目を集め、梶井基次郎もこの詩集の書評を寄せています。彼の詩は、従来の詩の形式にとらわれず、自由な表現を追求しており、その独自の詩風は多くの詩人に影響を与えました。

映画評論家としての活動

詩作と並行して、北川は映画評論家としても活躍しました。飯島正の誘いを受け、映画評論を執筆する中で、「散文映画」を提唱し、伊藤大輔が代表する「韻文映画」と対立しました。伊丹万作を高く評価し、シナリオ文学の独自性を主張しました。「シナリオ研究十人会」を結成し、機関誌『シナリオ研究』を刊行、萩原朔太郎もそこに寄稿しました。戦後は、詩と映画の両方でネオリアリズムを提唱し、雑誌『時間』を主宰しました。レーゼシナリオにも関心を持ち、「新形式として文学の分野を豊かにする」と述べています。

晩年と遺産

晩年は東京都立川市に居を構え、現代詩の改革を続けました。1980年には、彼の詩「石」が刻まれた詩碑が立川市に建立されました。北川冬彦の作品は、詩、小説、映画評論など多岐にわたり、それぞれの分野で革新的な試みを行い、日本の文学と映画に大きな足跡を残しました。彼の文学的遺産は、現代においてもなお、多くの人々に影響を与え続けています。

主な著作

詩集

『三半規管喪失』(1925年)
『戰爭』(1929年)
『氷』(1933年)
『實驗室』(1941年)
『氾濫 長編叙事詩』(1948年)
『北川冬彦詩集』(1951年)
『しんかん 信管, 振撼, 森閑, 心肝』(1964年)
『大蕩尽の結果』(1977年)
『北川冬彦全詩集』(1988年)

小説

『古鏡』(1940年)
『悪夢―小説』(1947年)

映画評論

『純粹映畫記』(1936年)
『シナリオ文學論』(1938年)
『散文映畫論』(1940年)
『現代映畫論』(1941年)
『シナリオの魅力』(1953年)

その他

『詩の話』(1949-1951年)
『現代詩鑑賞』(1970年)

作詞

* 鶴岡市民歌(1956年)

北川冬彦は、その多才な活動を通じて、日本の文学と映画の発展に貢献した重要な人物として、記憶されるべきでしょう。

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