誕生寺 (鴨川市)

千葉県 鴨川市に佇む日蓮宗大本山「誕生寺」

誕生寺は、千葉県鴨川市小湊に位置する日蓮宗の大本山で、山号を小湊山と称します。鎌倉時代の1276年（建治2年）に、日蓮聖人の弟子である日家上人が、日蓮聖人の生家跡に高光山日蓮誕生寺として建立したのが始まりです。

歴史

誕生寺は、その歴史の中で二度の大地震に見舞われました。室町時代の1498年（明応7年）の明応地震、そして江戸時代の1703年（元禄16年）の元禄地震です。これらの大地震と大津波により、誕生寺は小湊漁港近くの現在地に移転を余儀なくされました。かつて生家があったとされる場所は、現在は沖合いの海中に没しています。

江戸時代には、第26代の日孝上人が水戸光圀公の庇護を受け、七堂伽藍を再興し、寺号を小湊山誕生寺と改称しました。しかし、1758年（宝暦8年）に仁王門を残して焼失。その後、1842年（天保13年）に第49代目闡上人によって、現在見られる祖師堂が再建されました。

近代に入ると、大正天皇の病気平癒を祈願する廟所が建立されました。昭和から平成にかけては、50万人講を発願して諸堂の復興が進められ、1992年（平成4年）5月には落慶法要が執り行われました。2001年（平成13年）10月には、「誕生寺の線香と磯風」が、かおり風景100選に選定されています。

また、江戸時代には、不受不施派（悲田宗）禁制の幕命により、天台宗に宗旨替えを迫られる局面もありましたが、身延山久遠寺が日蓮聖人誕生の地という由緒により寺を譲り受け、一本山に格下げとなりました。その後、1946年（昭和21年）に大本山に復帰を果たしています。

現在、誕生寺の住職は84世石川日命貫首が務めています。石川貫首は、本山水戸久昌寺より晋山し、潮師法縁を継承しています。

伽藍

誕生寺の境内には、幼少期の日蓮聖人像や、祖師堂をはじめとする日蓮聖人にゆかりのある施設が数多く点在しています。

仁王門

1706年（宝永3年）に建立された仁王門は、1991年（平成3年）に大改修が行われました。入母屋造りの二重門で、間口は8間（柱間は五間三戸）あります。宝暦の大火を免れた、誕生寺の中で最も古い建造物です。門の両脇に安置されている金剛力士（仁王）像は松崎法橋の作、楼上に掲げられた般若の面は左甚五郎の作と伝えられています。この仁王門は、千葉県指定有形文化財に指定されています。

本堂

1991年（平成3年）10月に建立された本堂は、間口7.8間、奥行き8.8間の単層入母屋造り本瓦葺きです。水戸光圀公が寄進した十界本尊木像（大仏師左京康裕作）が安置されています。天井には、石川響筆による仏教植物の天井画82枚が描かれています。本堂には、日家上人、日保上人像も安置されています。

祖師堂

1842年（天保13年）に建立された祖師堂は、入母屋造り、総欅造りで、雨落ちが18間4面（柱間は正面7間、側面6間）あります。高さは95尺を誇ります。この祖師堂の建材は、江戸城改築用として伊達家仙台藩の船が江戸へ運ぶ途中で遭難し、譲り受けたものとされています。祖師堂には、日蓮聖人像が安置されており、聖人像が安置されている御宮殿は、明治天皇の女官たちの寄進によるものです。堂内右側の天井には、南部藩の相馬大作筆による天女の絵が描かれています。また、堂内の天蓋等の仏具類は、明治天皇の生母である中山慶子一位局や、大正天皇の生母・柳原愛子一位局によって寄進されました。この祖師堂も、鴨川市指定有形文化財に指定されています。

本師殿宝塔

1988年（昭和63年）5月に完成した本師殿宝塔は、総高26メートル、塔体は印度砂岩切石貼りです。塔内には、釈尊像（西村房蔵作）が安置されています。

宝物殿

1989年（平成元年）1月に新築開館した宝物殿は、面積366平方メートルを誇ります。ここには、日蓮聖人の真筆、歴代の墨蹟、里見家、加藤清正、水戸光圀公等の遺墨、明治皇室よりの拝領品、日蓮聖人御一代伝記画十八枚等が展示されています。

客殿

1933年（昭和8年）に建造された客殿は、総檜造りで、宮家の接待所として造られ、貴賓殿と称されました。

竜王殿

1890年（明治23年）には、奥庭の山の中に、有栖川宮家代々の位牌を祀る霊屋として竜王殿が建立されました。姉小路（勝光院）、室町清子、高倉寿子（明治時代女官長）、柳原愛子など10名の女官を施主とする供養塔などがあります。

このほか、境内には誕生堂、鐘楼堂、大田堂などがあります。

文化財（建造物以外）

誕生寺には、建造物以外にも貴重な文化財が数多く存在します。

石造三層塔（鴨川市指定有形文化財）
大壁画散華霊鷲山（石川響作）
富木殿女房御返事（日蓮真蹟）
薬王丸画像
誕生寺古図
生身の日蓮像と願満の鯛

1991年（平成3年）に祖師堂の日蓮像を修理するため解体した際、胎内から4代日静筆の古文書と薬草が発見されました。古文書には、「生身の祖師」の名と宗祖誕生の時と所が記されていました。日蓮聖人が母を蘇生させたという伝説から、誕生寺の日蓮像は「蘇生願満の祖師」と呼ばれています。

この願満の祖師のお使いとして、鯛が使われており、境内では鯛のお守り「願満の鯛」が販売されています。また、日蓮宗の信徒に限らず、周辺地域では鯛を食べることを嫌う人が多いそうです。なお、願満の鯛は、近所にある清澄寺の五角の合格枡とともに有名な縁起物となっています。

歴代住職

誕生寺の歴代住職には、6世日東上人、7世日耀上人、8世日堯上人、9世日詠上人、10世日蔵上人、11世日出上人、12世日威上人、13世日賑上人、14世日就上人が名を連ねています。

ギャラリー

（ギャラリーの画像に関する情報は省略）

交通アクセス

誕生寺へは、JR東日本外房線安房小湊駅から車で5分の距離です。

その他

山門と仁王門の柱には、太平洋戦争中に張られたと思われる「震洋特攻」と書かれた千社札が残されています。

誕生寺の近隣には、同じく日蓮宗大本山である千光山清澄寺、日蓮聖人の両親を祀った妙日山妙蓮寺（妙日は父、妙蓮は母の法号）、日蓮聖人誕生の際に集まった鯛が群生する鯛の浦（妙の浦）などがあります。

正月には、初日の出を見ようと誕生寺の前に人々が集まりますが、誕生寺の前は山陰となり、初日の出が遮られる地形となっています。このため、誕生寺から海岸線に沿って岬の先まで歩く必要がありますが、海岸線は照明がないため、注意が必要です。一方、清澄寺は山の上方に位置しており、関東では一番先に日の出を拝める場所とされています。

夏目漱石の小説『こゝろ』には、先生とKがこの寺や鯛の浦を訪れるシーンがあります。その際、日蓮聖人についての話を聞こうとしない先生に対し、Kが「精神的に向上心のないものはばかだ」と強く言い放つ場面が知られています。

旧末寺

日蓮宗では、1941年（昭和16年）に本末を解体したため、現在は旧本山、旧末寺と呼びならわしています。

脚注

(脚注に関する情報は省略)