論 (仏教)

論の概要

「論」という語は、仏教における教義を詳しく解説した書物の総称であり、特にアビダルマに焦点を当てています。しかし、漢訳圏の大乗仏教では、アビダルマだけでなく、教学の基礎を示す書籍やスートラ、またそれに対する注釈として成立した思想書も含まれ、「論書」として広く流通しています。

「論」の狭義と広義

狭義にはアビダルマを指すものの、漢語仏教圏ではウパデーシャやシャーストラといった用語も包含されています。これにより、論という用語は多様な教義の書物を包括することが理解されます。

歴史的背景

部派仏教とアビダルマ

部派仏教の発展と共に、各部派がそれぞれの解釈をもとに、多様な教理書やアビダルマを執筆しました。例えば、説一切有部や上座部仏教（南伝仏教）では、それぞれ異なる七つの根本論書が伝承されています。ここで注目すべきは、両者に共通する教理がない点です。これは、論蔵が部派仏教成立後に編纂されたものであることを示唆しています。

説一切有部では『六足論』や『発智論』が初期の七論として取り上げられ、上座部仏教はパーリ仏典の論蔵に基づいて書かれています。アッタカターやティーカーといった注釈が存在するものの、純粋な論として認められるのはアビダンマ七論のみです。

アビダルマの注釈書

説一切有部では、『発智論』に対する注釈として『婆沙論』が編纂され、その後、世親による教理の要約と批判を含む『倶舎論』が作成されました。さらに、この『倶舎論』に対する再批判として衆賢による『順正理論』が著されています。同様に、上座部においては『アビダンマッタサンガハ』という綱要書が作成され、アビダルマの教義をわかりやすく伝える役割を果たしています。

大乗仏教における論

大乗仏教では、新たに般若経といった独自の経典が成立し、経の概念が拡大しました。その一方で、ナーガールジュナによる中観派の『中論』や『百論』、さらには瑜伽行唯識派の『瑜伽師地論』や『成唯識論』などが著され、論の形式や内容が劇的に増加しました。

また、論書は中国や日本、チベットといった地域に伝播し、これらの土地の学者や僧侶によって様々な論が創作され、各宗派で重視されています。

結論

「論」という概念は、仏教の教義を深く掘り下げ、理解を深めるための重要な資源として位置づけられています。諸部派や大乗仏教を通じて形成された多様な論書が、仏教の思想や教理の発展に寄与してきたことは、今なお重要な学問的関心を集めています。

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