議場内粛正に関する決議

議場内粛正に関する決議

「議場内粛正に関する決議」とは、1948年（昭和23年）12月22日に日本の国会、特に衆議院において全会一致で可決された重要な決議です。この決議の主たる内容は、衆議院議員がアルコールを摂取した状態で本会議や委員会などの議場に出席することを厳しく禁じるというもの。国民の代表として議事に臨む議員の品位保持と、円滑かつ厳粛な議事運営の確保を目的として制定されました。

制定の背景

この決議が生まれた背景には、制定直前に発生した一つの大きな不祥事、通称「国会キス事件」があります。1948年12月13日、当時の泉山三六大蔵大臣（日本自由党所属）が、衆議院予算委員会に泥酔状態で出席しました。これだけでも国務大臣としては極めて不適切な行為ですが、さらに問題は続きます。予算委員会終了後、議員食堂へと向かう廊下で、居合わせた山下春江議員（民主自由党所属）に対して、泥酔状態で「君が好きなんだ」などと声をかけながら抱きつき、キスを強要しようとしたのです。山下議員がこれを拒否したところ、泉山大臣は激高し、山下議員の顎に噛みつくという、常識では考えられない行動に出ました。

この前代未聞の事件は、瞬く間に国会内外に波紋を広げました。野党各党は泉山大臣の行動に対して猛反発し、国会審議を一時的に拒否する事態に発展しました。国会がその機能を麻痺させる寸前に陥ったこの事態を重く見た泉山大臣は、翌日である12月14日には大蔵大臣の職を辞任する意向を表明し、さらに衆議院議員の辞職願も提出しました。一人の大臣による泥酔時の不祥事が、国政にこれほど大きな影響を与えたのです。

こうした事態を受け、国会に対する国民の信頼が大きく揺らぎました。二度と同様の不祥事を発生させないため、そして国会議員の行動規範を明確にする必要性が強く認識されることとなりました。

決議の内容と対象

国会キス事件を受けて、戸叶里子議員（日本社会党所属）らが中心となり、衆議院議員の規律保持を目的とした本決議案が提出されました。決議案は議員が酒気を帯びて議場に出席することを禁じるという簡潔かつ明確な内容でした。当時の国会が直面していた深刻な状況を反映し、この決議案は1948年12月22日の衆議院本会議において、超党派の賛成を得て全会一致で可決されました。

この「議場内粛正に関する決議」は、その名の通り衆議院における議場内の規律を定めたものであり、決議の対象は衆議院議員に限られます。日本の国会は衆議院と参議院の両院制ですが、この決議は衆議院独自のものであり、参議院においては同様の内容を持つ決議は可決されていません。また、国会審議に出席する国務大臣の中には、民間から登用される民間人閣僚や、公述人として意見を述べる一般の参考人などもいますが、これらの人々は衆議院議員ではないため、本決議の直接の対象には含まれません。

その後の影響と事例

「議場内粛正に関する決議」は、制定以来、衆議院議員の行動規範の一つとして位置づけられてきました。国会決議は、法律のような直接的な強制力を持つものではありませんが、議院内部の意思表示として、議員に対する倫理的な拘束力を持つと考えられています。特に全会一致で可決された本決議は、その重みを持つと言えるでしょう。

決議制定から長い年月が経過した後にも、本決議の遵守が問われた事例が存在します。例えば、2005年（平成17年）6月17日、第162回国会の会期延長を巡る衆議院本会議において、一部の議員が酒気を帯びた状態で議場にいたのではないかとの指摘がなされ、本決議に抵触する可能性があるとして問題視されました。この事例は、本決議が単なる過去の遺物ではなく、現代においても議員の行動に対する規律として機能しうることを示しています。

議場内粛正に関する決議は、特定の不祥事を契機として制定されたものではありますが、その根底には、国民の代表である国会議員が、議事において常に品位を保ち、厳粛かつ真摯な態度で臨むべきであるという、議会制民主主義における基本的な理念が存在します。この決議は、そうした理念を具体的に表現し、議員の行動を律する一助として、現在もなおその意義を持ち続けています。

（注：本稿は公開情報に基づき記述しており、決議全文は含んでいません）

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