讖緯

讖緯：古代中国を揺るがした予言の思想

古代中国において、政治や社会に大きな影響を与えた予言思想に「讖緯（しんい）」があります。讖緯は、未来を予言する書物や思想を指し、王朝の興亡や政治的転換に深く関与していました。本稿では、その歴史と思想的背景について詳しく解説します。

讖と緯：異なる起源と融合

元来、「讖（しん）」と「緯（い）」は別々の概念でした。「讖」は未来を予言するものであり、予言書は「讖記」と呼ばれていました。一方、「緯」は儒教の経典に対応する補足的な書物群を指し、「緯書」と呼ばれていました。これらの書物は、経典の解釈を深めたり、新たな視点を与えたりする役割を果たしていました。

しかし、後世になると「讖」と「緯」は融合し、「讖緯」という用語は、予言そのもの、そしてそれを記した書物をまとめて指すようになりました。この融合は、予言が政治的に利用されるようになったことと深く関わっています。

王莽と光武帝：讖緯を利用した権力掌握

讖緯説が大きく発展したのは、王莽の新（しん）の時代です。王莽は、自身の即位を予言する瑞石の発見を主張し、その予言を利用して漢朝を簒奪しました。この成功は、讖緯思想の政治的影響力を示す象徴的な出来事となりました。

後漢の光武帝もまた、讖緯説を利用して即位しました。後漢時代には、儒教経典に対する緯書が多数作成され、それらは孔子の言葉として受け入れられました。春秋戦国時代の天文占星術に由来する讖記も緯書に取り入れられ、孔子の言として解釈されるようになりました。

興味深いのは、鄭玄や馬融といった、讖緯説に批判的な大儒者でさえ、緯書を用いて経典を解釈することに抵抗を感じていなかった点です。当時の学問界において、緯書は経典解釈の重要なツールとして広く受け入れられていたことを示しています。『論語』に対する『論語讖』が作成されたことからも、その浸透度がわかります。

一方で、桓譚や張衡のように、讖緯説を信じない者たちは不遇を経験しました。これは、讖緯思想が当時の社会に深く根付いていたことを裏付けています。

王朝の興亡と讖緯の禁圧

王莽の新の時代以降、讖緯説は王朝革命と深く結びつき、密接な関係を持っていました。そのため、時の権力者にとって、讖緯は常に危険視される存在でした。南北朝時代以降、歴代の王朝は讖緯の書を禁書扱いし、その流通を厳しく取り締まりました。これは、讖緯思想が、権力闘争や政変に利用される可能性を秘めていたためです。

結論

讖緯は、古代中国の政治と社会に大きな影響を与えた予言思想です。王朝の興亡と深く結びつき、権力者によって利用された一方で、厳しい弾圧も受けました。その歴史と思想は、古代中国社会の複雑な姿を映し出しており、現代においても、政治と宗教、そして予言の持つ力について考えさせる重要なテーマとなっています。

参考文献

安居香山、中村璋八編『重編緯書集成』（明徳出版社、1971年）

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