豆腐小僧

豆腐小僧：江戸の妖怪文化を彩る小さな存在

豆腐小僧は、頭に笠をかぶり、盆に載せた豆腐を運ぶ子供の姿をした日本の妖怪です。主に江戸時代後期以降の草双紙や錦絵などに登場し、その愛らしい風貌から親しまれてきました。しかし、その出自や詳細については謎が多く、現代でも研究が続けられています。

豆腐小僧の姿と特徴

豆腐小僧は、人間の子供のような顔や、一つ目の顔で描かれるなど、表現にバリエーションがあります。運ぶ豆腐は、紅葉の葉のような模様が浮き出た「紅葉豆腐」が多いとされ、これは江戸時代に実際に販売されていた豆腐です。着物は普通の子供の着物が多いですが、酒呑童子のような格子模様や、疱瘡除けのおもちゃを模した模様が描かれているものも見られます。

文献における豆腐小僧

民俗学的な文献や昔話、随筆などでは、豆腐小僧の具体的な出現譚はほとんど確認されていません。そのため、豆腐小僧は江戸時代の草双紙上で創作された妖怪と考えられています。安永年間（1772年～1781年）から確認でき、幕末から明治時代にかけては、凧やすごろく、かるたなどのおもちゃ絵にも登場し、広く親しまれていました。川柳や狂歌、歌舞伎にもその姿を見ることができます。

草双紙では、豆腐や酒を持ち運ぶ子供として描かれており、雨の夜などに人の後をついて歩くこともありますが、悪さを働く描写は少ないです。そのため、物語の中ではお人好しで気弱、滑稽な役回りとして登場することが多いです。

黄表紙や、恋川春町『妖怪仕内評判記』（1779年）では、イタチの化身として、北尾政美『夭怪着到牒』（1788年）では「大頭小僧」という名前で、妖怪の総大将・見越入道の息子として登場するなど、創作上の設定は様々です。他の妖怪にいじめられるという設定も見られます。『妖怪仕内評判記』では「頭大ぶりにて」と記述されており、頭が大きいという特徴も強調されています。

昭和・平成以降の妖怪関連の文献では、豆腐を人に勧めるものの、食べるとカビが生えるという描写が見られますが、これは江戸時代の文献には見られず、後世の創作による付加と考えられます。

歴史と発想：都市文化が生んだ妖怪

豆腐小僧は安永年間から草双紙に現れ、黄表紙『妖怪仕内評判記』が初期の例とされています。これは豆腐小僧が都市文化の中で生まれたことを示唆しています。その創作の経緯は不明ですが、当時栄養価の高い食品として人気だった豆腐が反映されているという説もあります。

豆腐小僧のような、小間使いのような姿で描かれる妖怪には、一つ目小僧、雨降小僧、狸、河童などがあり、一つ目小僧や河童が豆腐を持つ姿で描かれることから、これらの妖怪との関連性が指摘されています。十返舎一九の『化皮太鼓伝』（1833年）では、笠をかぶった狸が豆腐柄の着物を着ており、豆腐小僧を思わせる描写があります。

豆腐小僧と一つ目小僧：曖昧な境界線

一つ目小僧も、江戸時代の草双紙や絵馬などでは豆腐を持っている姿で描かれることが多く、かるたなどにも見られます。「豆腐屋の裏は一つ目小僧なり」といった川柳や狂歌も存在し、両者の境界は曖昧でした。そのため、豆腐小僧は一つ目小僧の異名に過ぎないという説もあります。しかし、明らかに一つ目ではない豆腐小僧も存在することから、独立した存在とする説もあり、結論は出ていません。

現代の創作における豆腐小僧

昭和以降、多くの妖怪図鑑にも登場した豆腐小僧ですが、平成期にはアダム・カバットの編著『江戸化物草紙』や『大江戸化物細見』などで広く紹介され、現代の妖怪創作にも影響を与えています。京極夏彦の『豆腐小僧双六道中ふりだし 本朝妖怪盛衰録』（2003年）などもその例です。

豆腐小僧は、その愛らしい姿と謎めいた出自で、現代においても人々の想像力を掻き立て続ける、魅力的な妖怪と言えるでしょう。

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