豊後国志

『豊後国志』の概要

『豊後国志』（ぶんごこくし）は、18世紀初頭に完成した豊後国（現在の大分県）に関する重要な地誌です。この文献は、豊後岡藩の儒医であった唐橋君山の業績を伊藤鏡河や田能村竹田らが編纂したもので、1803年にその制作が完了しました。翌年には幕府に献上され、多くの地理情報を含む価値ある資料とされています。

内容の詳細

この地誌は全9巻から構成されており、附図が8枚付属しています。第一巻では序文や凡例、目録、総説が収められ、第二巻以降は各郡に特化した内容になっています。豊後国を構成する国東郡、速見郡、大分郡、海部郡、大野郡、直入郡、玖珠郡、日田郡といった郡ごとに地名、庄名、村里、税制、景観、交通路、特産物、寺社、古跡、著名な人物など多岐にわたって詳細を記しています。また、各郡には補助的な地図も添えられており、視覚的にも理解しやすくなっています。

当時の豊後国では、岡藩の他に多くの小藩が存在し、さらには異なる藩の飛び地が入り乱れる複雑な地政学的状況がありました。そのような中で、『豊後国志』は各地を訪れ、現地の調査を経て編纂されました。この作業は、豊後国や現在の大分県の歴史を知る上で欠かせない資料の一つとされています。

編纂の背景

この地誌の編纂は、江戸幕府によって推進された全国の地誌編纂事業の一環として実施されました。寛政9年（1797年）に幕命を受けた岡藩の第9代藩主中川久持によって、翌年には唐橋君山がその制作を開始しました。君山は実地調査を行い、準備を進めましたが、1800年に亡くなりました。その後、田能村竹田や伊藤鏡河が作業を引き継ぎ、享和3年に完成に至りました。

『豊後国志』は、完成後の享和4年（1804年）に中川家から幕府に献上されたものの、その原本は現在確認できません。藩校由学館に設置された副本が伝わっており、現在も竹田市に保存されています。また、国立国会図書館や大分県立図書館などにも写本が保管されています。

1931年には今村孝次による校訂版が出版され、その後も復刻版や訓読版が発行され、江戸時代の資料としての重要性が今も続いています。また、中川家本を基にした最新の訓読版も2018年に出版されています。

結論

『豊後国志』は、地理や歴史を詳細に記録した重要な文献で、豊後地方の成り立ちや特性について知るための貴重な資源です。エビデンスに基づく地理情報を提供し、古き良き日本の姿を垣間見ることができる作品として、今後もその重要性が再評価され続けるでしょう。

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