豊清水信号場

豊清水信号場：宗谷本線に消えた駅舎の物語

北海道中川郡美深町にある豊清水信号場は、北海道旅客鉄道（JR北海道）宗谷本線に位置する信号場です。かつては駅として賑わいを見せていましたが、時代の流れとともに旅客営業を終了し、静かにその歴史を刻んでいます。本稿では、豊清水信号場の歴史、構造、周辺環境、そしてその周辺地域との関わりについて詳細に解説します。

開業から廃駅、そして信号場へ

豊清水駅の歴史は、大正時代からの入植者による駅設置の請願から始まります。長年の努力の末、1946年10月10日、豊清水仮乗降場として開業。地元住民の熱意と尽力により、駅舎とホームは建設されました。その建設には、地元住民による約300人もの奉仕作業が投入されたというエピソードも残っています。1950年には正式に駅に昇格し、貨物・荷物取扱いを開始。しかし、時代の変化とともに利用客は減少。車扱貨物、小口貨物、荷物取扱いの廃止を経て、1986年には無人駅となり、2021年3月13日、旅客扱いを廃止し、現在の信号場となりました。この決定には、JR北海道による沿線自治体への存続または廃止に関する要請と、美深町の廃止容認という経緯があります。

駅舎と周辺環境

豊清水信号場は、美深駅と音威子府駅間の列車交換が可能な唯一の施設です。線路西側には、旅客駅時代の木造駅舎が現在も残されています。冬季には保線要員が常駐し、朝夕の時間帯には普通列車や特急列車の行き違いに使用されています。駅周辺は牧草畑が広がり、高台にあることから見晴らしも良好です。しかし、冬季には道路閉鎖区間も発生し、アクセスに影響が出る場合があります。国道40号は駅裏手に位置しますが、直接アクセスできる道路はありません。最寄りの宿泊施設として、Blueberry House音威子府村がありますが、冬季の道路閉鎖により徒歩でのアクセスは困難になります。美深町スクールバスの楠清水線も運行されていましたが、現在バス停は撤去されています。

名称の由来

豊清水という地名は、美深町清水と隣接する常盤村清水（現・音威子府村咲来の一部）の両地区に由来します。「豊」は将来の発展を願い、「清水」は美深・音威子府町村境を流れるペペケナイ川（アイヌ語：水が清澄な川）を指すアイヌ語の意訳です。この地名の由来は、地域住民の豊かな未来への願いが込められています。

廃駅後の取り組み

2021年3月、豊清水駅を含む美深町内の無人駅3駅が廃止されました。それに伴い、地元の若手住民で構成される「美深廃駅プロジェクト」が、廃止対象3駅をテーマにした記録映像の制作を開始。クラウドファンディングによる資金調達も実施されました。この取り組みは、地域の歴史と文化を次世代へ継承しようとする、地域住民の強い意志の表れと言えます。

まとめ

豊清水信号場は、単なる信号場ではなく、地域住民の努力と歴史の軌跡が凝縮された場所です。かつての賑わいから現在の静寂へと変化を遂げた豊清水信号場は、未来へのメッセージを静かに語りかけています。この地の歴史を理解することは、地域への理解を深めることにもつながるでしょう。

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