豊稔池ダム

豊稔池ダム：日本最古の石積式マルチプルアーチダム

香川県観音寺市大野原町に位置する豊稔池ダムは、現存する日本最古の石積式マルチプルアーチダムとして、その歴史的価値と技術的な素晴らしさで注目を集めています。讃岐山脈から流れる柞田川をせき止め、広大な水田を潤すこのダムは、幾度となく襲来した旱魃を克服すべく、人々の強い願いによって建設されました。

ダム建設の背景と経緯

1920年代、香川県では深刻な旱魃が頻発し、農業に大きな打撃を与えていました。特に1924年には農民一揆が発生するなど、深刻な社会問題となっていました。この状況を打開するため、地元住民の強い要望を受け、1926年、豊稔池ダムの建設が開始されました。

建設には、地元住民による組合が部分的に請負うという、当時としては画期的な取り組みが採られました。延べ15万人もの人々が参加し、まさに人海戦術ともいえる大規模な作業によって、わずか約4年という短期間でダムの完成という偉業を成し遂げました。これは、地域住民の強い結束とダム建設への熱意が結実した、感動的な出来事でした。

ダムの技術と構造

豊稔池ダムは、マルチプルアーチダムという、当時アメリカで最先端技術であった工法を採用しています。全国でも、宮城県仙台市の大倉ダム（二連式）と合わせてわずか2例しかなく、その希少性から土木史、ダム技術史においても重要な建造物とされています。

ダム本体は石積で造られており、その雄壮な姿は、まるでヨーロッパの古城を思わせるほどの美しさです。現在では、上流部はコンクリートで補強されていますが、下流部には当時の石積みがそのまま残されており、歴史を感じさせる貴重な景観となっています。

豊稔池と周辺環境

ダムによって形成された人造湖である豊稔池は、その美しい景観から2010年に農林水産省選定の「ため池百選」に選ばれ、湖畔には「豊稔池遊水公園」も整備されています。現在も、豊稔池は周辺約530haの水田を潤しており、地域の農業を支える重要な役割を担っています。

豊稔池周辺では、稲作や野菜栽培、果樹栽培など、多様な農業が行われ、高い生産性と経済性を誇る集約型農業が展開されています。特に「らりるレタス」と呼ばれるブランドレタスは、この地域を代表する農産物となっています。

観光とイベント

毎年7月中旬から下旬にかけて行われる「ユル抜き行事」では、ダムから勢いよく水が放出される様子は圧巻です。また、地上30メートルからの放水も、見どころの一つです。これらのイベントは、多くの観光客を呼び込み、地域の活性化に貢献しています。

豊稔池ダムの文化的価値

豊稔池ダムは、単なる治水・利水施設ではなく、地域住民の結束と努力によって生まれた貴重な遺産です。その歴史的価値、技術的価値、そして景観の美しさから、2006年には国の重要文化財に指定されました。現在も、地域のシンボルとして大切に守られ、未来へと受け継がれていくことでしょう。

アクセス情報

JR四国観音寺駅から車で約20分
高松自動車道大野原ICから車で約15分

周辺道路：香川県道・愛媛県道9号大野原川之江線

関連情報

ダム便覧
ため池百選
* 四国八十八景

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