讃岐山脈

讃岐山脈：歴史と文化が息づく山並み

讃岐山脈は、香川県と徳島県の境界に連なる地塁山脈です。東西に長く、南北には狭く、急峻な山々が連なるのが特徴で、標高800メートル級の山々が連なっています。特に、徳島県側は吉野川が山脈の直下を流れているため、香川県側よりも急な斜面となっています。この山脈は、主に和泉層群と呼ばれる地層で構成されており、アンモナイトなどの化石が発見されることから、かつては海であったと考えられています。

借耕牛：山間部と平野部を結ぶ絆

讃岐山脈の歴史を語る上で欠かせないのが、「借耕牛（かりこうし）」という独特の風習です。これは、江戸時代中期から昭和時代中期にかけて、香川県（讃岐国）の平野部の農家が、田を耕すための牛を、徳島県（阿波国）の山間部の農家から借りていたもので、農繁期のみ行われる相互扶助に近い農業経営上の取引活動でした。

平野部が広がる讃岐では米作りが盛んでしたが、草地が少なく牛の飼育が困難でした。一方、阿波の山間部では水田にできる土地が少なかったため、米は貴重な食糧でした。このため、讃岐の農家は牛を借り、阿波の農家は労働力を得るという、両者のニーズが合致したのです。

借耕牛は、春の田起こし時期に合わせて、阿波の山間部から讃岐の平野部へと移動しました。山越えの道のりは険しく、雪道を越えることもありました。牛だけでなく、牛を連れていく「かりこさん」も遭難の危険と隣り合わせでした。また、牛が怪我をすると農作業に支障が出るため、特に脚の怪我は致命的でした。

讃岐での農作業が終わると、牛は再び阿波へと戻ります。しかし、長時間の労働や気候の変化で、牛は疲弊していることが多く、帰路もまた危険を伴いました。それでも、両地域の農家は牛に感謝し、別れを惜しんだといいます。

借耕牛がもたらした影響

借耕牛は、単なる農業の取引にとどまらず、両地域の交流を深める役割も果たしました。牛の受け渡しの時期には、峠の集合場付近が賑わい、飲食店も栄えました。また、阿波から讃岐への嫁入りも増えたといわれています。

借耕牛の労をねぎらうため、讃岐山脈の峠道には「牛の墓」と呼ばれる石碑が建てられました。これは、借耕牛だけでなく、運搬に使われた牛も合わせた供養塚で、地元の人々にとって大切な信仰の対象となっています。

近代以降の讃岐山脈

明治時代には、廃藩置県により一時的に香川県が廃止され、讃岐は阿波と共に名東県となりましたが、山脈などの地理的要因から、2年後には再び香川県が再置されました。昭和時代には、讃岐山脈を貫く香川用水が完成し、長年水不足に苦しんでいた讃岐平野の水事情が改善されました。

交通

古くから讃岐山脈には12の峠道があり、両地域を結んでいました。現在では、トンネルや高速道路が整備され、交通の便が大幅に向上しています。

主な峠道とトンネル

三津トンネル（国道11号）
引田トンネル（国道11号）
大坂峠
大坂山トンネル（高徳線）
大坂トンネル（高松自動車道）
一本松越
大山越
鵜峠
鵜の田尾トンネル（国道318号）
清水峠（国道193号）
大瀧寺越 / 大滝山峠
相栗峠
寒風越
三頭越
三頭トンネル（国道438号）
真鈴峠
東山峠
猪ノ鼻峠
猪ノ鼻トンネル（土讃線）
猪之鼻隧道
猪ノ鼻道路（国道32号）
六地蔵越
薬師峠
曼陀峠
曼陀トンネル
田野々越
鳥越（国道11号）
鳥越トンネル（高松自動車道）

阿讃山脈：徳島県における讃岐山脈の呼称

徳島県では、讃岐山脈のことを「阿讃山脈（あさんさんみゃく）」と呼ぶことがあります。これは、阿波国と讃岐国の境に続く山脈であることを示す名称です。観光客向けのガイドなどでは、「阿讃山脈」の名称が使われることも多く、香川県でも年配の方を中心にこの名称が使われることがあります。

讃岐山脈は、その豊かな自然と歴史、そして独特の文化が魅力の山脈です。この山脈を訪れることで、古代から続く人々の営みを感じることができるでしょう。

参考文献

讃岐山脈 (Wikipedia)
借耕牛 (Wikipedia)

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