人海戦術

人海戦術：兵力差を活かす戦術思想

人海戦術とは、圧倒的な兵力差を背景に、敵を押しつぶすようにして目的を達成しようとする戦術思想です。飽和攻撃と類似した概念であり、しばしば「数の暴力」と揶揄されることもあります。しかし、その歴史は深く、状況によっては効果的な戦術となりえます。

人海戦術の概要

人海戦術は、一般的に「多数の兵士を投入し、敵の防御線を突破する」というイメージで捉えられています。例えば、「こちらが10万発の弾丸を持っているのに対し、敵は10万人以上の兵士を無防備で突撃させてくる」といった状況です。この戦術は、朝鮮戦争において中国人民志願軍が用いたことで広く知られるようになりました。

また、敵の堅固な陣地に対し、波のように兵士を投入する戦法も人海戦術とみなされることがあります。これは、敵の防御力を圧倒的な兵力で上回ることで、最終的な勝利を目指すものです。

歴史

第一次世界大戦

第一次世界大戦では、機関銃陣地が多数の歩兵による正面突撃を容易に撃退できることが明らかになりました。歩兵浸透戦術が主流となり、「一般的な人海戦術」が成功することはほとんどありませんでした。

中国軍の山岳浸透戦略

朝鮮戦争において、中国人民志願軍は、軽装備の歩兵を山岳地帯から迂回させる戦術を大規模に展開しました。夜間の山岳行軍を伴うこの戦術は、アメリカ軍にとって予想外の奇襲となり、戦略的な成功を収めました。しかし、追撃戦においては、歩兵による正面突撃を余儀なくされ、機関銃などの重火器を備えた国連軍の前に大きな損害を被りました。

中国軍の戦略としての人海戦術

中国国民党は、中国共産党軍が平民を人間の盾として利用しているとして、「人海戦術」と非難しました。毛沢東は「人民の海に敵軍を埋葬する」という戦略を提唱し、敵を包囲し、ゲリラ戦を展開することで、日本軍を苦しめました。

ただし、中越戦争では古典的な人海戦術が限界を見せ、中国人民解放軍は近代的なドクトリンへと修正を迫られました。

ロシアのウクライナ侵攻

2022年からのロシアのウクライナ侵攻では、ロシア軍は多くの歩兵を犠牲にする消耗戦を展開しました。アウディーイウカの戦いでは、ウクライナ軍を圧倒し撤退に追い込むことに成功しましたが、その代償は大きいものでした。また、ロシアはウクライナによるクルスク州への侵攻に対抗するため、北朝鮮から派遣された兵士を大量投入し、激しい消耗戦が繰り広げられました。

まとめ

人海戦術は、兵力差を利用して目的を達成する戦術思想ですが、その効果は状況に大きく左右されます。近代戦においては、機関銃や砲兵などの火力が向上したため、単純な歩兵突撃は大きな損害を招く可能性があります。しかし、地形や敵の防御状況によっては、人海戦術が有効な手段となることもあります。現代においては、人海戦術は必ずしも主要な戦術ではありませんが、依然として考慮すべき要素の一つと言えるでしょう。

関連項目

バンザイ突撃
飽和攻撃
数の暴力
数の論理
白兵戦
大砲の餌食

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