豊遙秋

豊遙秋：日本の鉱物学を牽引した研究者

豊遙秋氏は、1942年生まれの日本の地球科学者です。専門は鉱物学と鉱床学であり、その卓越した研究活動で日本の鉱物学界に多大な貢献を果たしました。

平安時代から続く雅楽の家系に生まれた豊氏は、家業を継ぐことなく、鉱物学への強い情熱を抱き、桜井欽一氏主催の鉱物愛好家グループ「無名会」に入会。秋田大学鉱山学部卒業後、東京大学大学院で学び、1981年には「氷長石及び珪灰鉄鉱における秩序状態と生成条件の関係に関するX線的研究」で理学博士号を取得しました。

東京大学総合研究資料館での助手時代を経て、旧工業技術院地質調査所（現・産業技術総合研究所地質調査総合センター）に入所。同研究所では、図幅調査や記載鉱物学を担当し、その専門性を活かして多くの新鉱物の発見に貢献しました。和田石、カリ（第一鉄）定永閃石、プロトマンガン鉄直閃石など、数々の新鉱物の発見に携わり、日本の鉱物学研究を大きく前進させました。

地質標本館館長を歴任したのち退職した後も、その豊富な経験と知識を活かし、全国の国立大学や自治体が所蔵する膨大な鉱物標本の整理に尽力しました。その功績は高く評価されており、2015年には日本鉱物科学会表彰を受賞しています。

特に注目すべきは、2006年に個人で収集した約4000点もの鉱物標本を中国地質博物館に寄贈したことでしょう。この寄贈は、日本の鉱物学研究の国際的な発展にも寄与する重要な出来事となりました。中国地質博物館には、豊氏に因んで「豊コーナー」が設けられ、その貢献が顕彰されています。

さらに、豊氏の長年にわたる記載鉱物学への貢献を称え、高知県いの町の鉄マンガン鉱床から発見された新鉱物は「豊石（ぶんのせき、Bunnoite）」と命名されました(2014年承認)。この命名は、豊氏の研究者としての功績がいかに高く評価されているかを示すものです。

豊氏は、数々の著書も発表しており、『日本の岩石と鉱物』、『検索入門 鉱物・岩石』など、鉱物学を学ぶ者にとって貴重な資料となっています。これらの著書は、現在でも多くの学生や研究者によって活用されており、日本の鉱物学教育にも大きな影響を与え続けています。

豊遙秋氏の生涯は、並々ならぬ情熱と努力によって日本の鉱物学研究を飛躍的に発展させた、稀有な研究者の軌跡を示しています。その功績は、単なる研究成果にとどまらず、日本の鉱物学界、ひいては国際的な科学コミュニティに永続的な影響を与え続けるでしょう。彼の貢献は、これからも多くの研究者や愛好家たちにインスピレーションを与え続けるに違いありません。

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