豚便所

豚便所（ぶたべんじょ）

豚便所は、人間の排泄物をブタの餌として利用する、独特な構造を持つ便所です。中国を起源とし、便所と豚小屋を組み合わせたもので、中国では「豬厠（ちょそく）」、沖縄では「フールー」、韓国の済州島では「トットンシ」と呼ばれていました。

概要

豚便所の基本的な構造は、豚小屋の上に便所を設けるというものです。人が便所で用を足すと、排泄物が直接ブタの餌となります。ブタは人間の尿は好みませんが、糞に含まれる未消化の栄養分を餌の一部として利用します。特に、野菜を多く摂取する地域では、糞に含まれる未消化成分が多いため、ブタにとって貴重な栄養源となりました。もちろん、ブタの餌の全てが人糞だったわけではなく、藁なども与えられていました。

このシステムは、食料が限られた地域において、資源を有効活用する手段として発展しました。排泄物を捨てる手間が省けるだけでなく、ブタの飼料代を節約できるという利点もありました。

豚便所は中国以外にも、日本の南西諸島、韓国の済州島、ベトナム、インドのゴア州などに伝わりました。また、豚だけでなく、水路の上に便所を設置し、魚の餌とする例もありました。

歴史

豚便所の起源は古く、約9000年前に遡ると考えられています。イノシシが家畜化され、ブタが人間の生活空間に近づくにつれて、排泄物をブタが食べるという現象が観察されました。また、放し飼いのブタがいる環境では、落ち着いて用を足すことが難しいという問題もありました。これらの問題を解決するために、豚便所というシステムが考案されたと考えられています。

中国では、周の時代にはすでに豚便所が存在していたとされ、秦の時代には一般にも普及しました。前[[漢]]代の遺跡からは、豚便所の陶製の模型が出土しています。また、前[[漢]]の呂后が戚夫人を「人彘（じんてい）」にしたという逸話からも、当時の都市部で豚便所が普及していたことが伺えます。

日本国内における豚便所

日本では、沖縄県や奄美群島に豚便所が存在しました。しかし、これらの地域ではブタを食用としていたため、サナダムシなどの寄生虫病が蔓延するという問題がありました。明治時代以降、衛生観念の向上とともに、豚便所の不衛生さが問題視されるようになり、風俗改良運動の中で廃止が推奨されました。大正時代には、県令によって新規の開設が禁止され、沖縄戦後にはアメリカ軍当局によって使用も完全に禁止されました。

本土では、山間部でイノシシが狩猟の対象となっていたこと、排泄物が肥料として利用されていたこと、仏教の教えから殺生が禁じられていたことなどから、ブタの飼育自体が普及しませんでした。そのため、豚便所も伝播しませんでした。

豚便所は、現代においては衛生上の問題から姿を消しましたが、かつては資源を有効活用するための知恵であり、生活文化の一部でした。その歴史を振り返ることは、私たちの生活を見つめ直す良い機会になるかもしれません。

関連項目

便所
日本の便所
落下式便所
ブタ
* 寄生虫病

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