豚松

三保の豚松：隻腕隻眼の侠客、その実像と伝説

三保の豚松（みほのぶたまつ）は、幕末に活躍した侠客で、清水次郎長配下の「清水二十八人衆」の一人として知られています。その生涯は謎に包まれており、本名や生年月日も定かではありませんが、講談や浪曲、映画などのフィクション作品を通じて、その名を知られています。

生涯

1840年前後、駿河国有渡郡三保村（現在の静岡市清水区三保）の漁師の家に生まれたとされています。三保村は、風光明媚な三保の松原があり、清水湊にも近い場所でした。平岡正明の説によれば、次郎長の父親と豚松の父親は難破で八丈島に漂着した際に知り合った友人で、その縁から地元出身者を乾分に迎えない方針の次郎長が、豚松を例外的に配下に加えたといいます。

隻眼になった経緯については、清水湊でふらふらしていた頃、喧嘩で顔を切られて眼球が飛び出し、自ら眼窩に戻して医者で治療したという逸話が残っています。今川徳三は、このエピソードが、刈谷藩藩士・松本奎堂が左眼を失明した際のエピソードに酷似していると指摘しています。

また、1864年に起きた次郎長一家と平井一家との喧嘩で重傷を負ったとも言われています。『東海遊侠伝』には、豚松が5人を相手に奮戦し、左腕を斬られ、右顔面も斬られたものの、3人を倒した後、切断された腕を拾って帰ったという記述があります。しかし、その翌年に傷が癒えぬまま飲酒したことが原因で亡くなったとも記されています。

腕を斬られた時期については別の説もあり、1866年に黒駒勝蔵が蒲郡に殴り込みをかけた際に負ったという説も存在します。この際、豚松は左腕を切断する重傷を負いながらも、勝蔵一味を追い詰めたと伝えられています。

明治維新後の1871年、荒神山の決着後に行われた手打ち式の写真には、右眼に古傷を負った豚松の姿が写っています。今川徳三によれば、豚松はいわゆる「三ン下奴」ではなく、一家を構えた親分だったとされています。次郎長が亡くなった1893年以降の消息は不明で、墓も発見されていません。

フィクションにおける豚松

豚松が「清水二十八人衆」であった時代は、1864年から1871年頃と推測されています。「清水二十八人衆」自体が浪曲師の三代目神田伯山の創作であるとされ、豚松も「三保の松五郎」として、その名が連ねられています。三代目伯山は、森の石松を隻眼の設定にしたのも、豚松の史実を石松に反映させたものと考えられています。

村上元三の小説『次郎長三国志』や、マキノ雅弘監督の映画『次郎長三国志』などの作品にも登場し、その勇猛果敢な姿が描かれています。映画では、加東大介や佐藤晟也が豚松を演じ、物語に彩りを添えました。

二代目広沢虎造の浪曲『石松三十石船道中』にも、「三保の松五郎」と「豚松」が重複して登場するなど、フィクションの世界で様々な描かれ方をしています。

豚松が登場する作品

映画『次郎長三国志』シリーズ（東宝、東映）
映画『次郎長遊侠伝 天城鴉』
映画『清水港の名物男 遠州森の石松』
映画『次郎長意外伝 灰神楽木曽の火祭』
映画『森の石松幽霊道中』
映画『ひばりの森の石松』
映画『続次郎長富士』
映画『次郎長血笑記 殴り込み荒神山』
映画『勢揃い東海道』
テレビドラマ『次郎長三国志』
テレビドラマ『清水次郎長』
テレビドラマ『マチャアキの森の石松』
テレビドラマ『次郎長三国志 勢揃い二十八人衆喧嘩旅!』
テレビドラマ『次郎長背負い富士』


三保の豚松は、史実とフィクションが混ざり合い、様々な物語の中でその姿を変えながら、人々の記憶に残り続けている侠客です。隻腕隻眼という特異な姿と、勇猛果敢な生き様は、時代を超えて語り継がれています。

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