貞信公記

『貞信公記』について

『貞信公記』は、10世紀前半における政治や朝廷の儀礼についての貴重な記録です。この日記は、関白太政大臣である藤原忠平が記したもので、彼の諡号である「貞信公」に基づいた名称が付けられています。したがって、別名では『貞信公御記』とも呼ばれています。

日記の現存部分は、忠平が28歳の時である延喜7年（907年）から、彼が亡くなる前年の天暦2年（948年）までの記録が含まれていますが、一部が欠落しています。これにより、当時の政治的出来事や朝廷での儀式の様子がどのようであったかを知る上で、重要な情報源として位置付けられています。

災害の記録

特に注目すべきは、天慶元年（938年）4月16日の日記の中で記された天慶地震の発生です。この記録は、当時の日本における自然災害の影響を考察する際に有用な情報を提供しています。

写本と伝承

『貞信公記』の原典というべき日記の詳細な写本は現存していませんが、現在私たちが知っているものは、忠平の長男である藤原実頼によって編纂された抄本です。このため、今日ある写本は忠平の原本の簡略な形式で記述されており、他の日記に比べて朝廷の儀典や政務に関する詳しい詳細が不足している部分があります。また、実頼が抄出を行う際に付け加えた「私記」と呼ばれる注釈が加えられている点も特色です。

実頼の手による抄出作業は、当時の暦についての多数の注記も含んでおり、これが原本が具注暦形式で書かれていたことを明示する証拠となっています。さらに、藤原道長の日記である『御堂[[関白記]]』も同じく具注暦で書かれており、こうしたことからも当時の記述のスタイルが見て取れます。

現存の写本

現在、本書の伝わる写本は複数存在しており、特に九条元公爵家本が鎌倉時代初期の重要文化財として位置付けられ、天理図書館に保存されています。他にも、久松本は京都大学に所蔵されるなど、宮内庁書陵部や尊経閣文庫、神宮文庫などでも確認することができます。また、儀式関連の文献である『西宮記』や『北山抄』には本書の抜粋も見られるため、さまざまな文献との関連性が読み取れるのです。

刊本の発行

このような背景を持つ『貞信公記』は、活字化された形でも存在しています。『大日本古記録』や『続々群書類従』に収められているほか、九条元公爵家本の影印本は『天理図書館善本叢書』として刊行されるなどし、歴史的な資料としての価値が広く認められています。

このように、『貞信公記』は10世紀の日本における政治や社会の理解を助けるための、欠かせない資料であることがわかります。

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