貴族院令

貴族院令：大日本帝国憲法下の貴族院制度

概要

貴族院令（明治22年勅令第11号）は、大日本帝国憲法下における帝国議会上院、貴族院の議員資格、権限などを規定した勅令です。大日本帝国憲法第33条で規定された二院制に基づき、衆議院（公選）と対比的に、貴族院議員は皇族、華族、および勅任された者で構成されることを定めていました。

歴史的背景と制定

衆議院議員選挙法が衆議院議員の資格を法律で定めたのに対し、貴族院議員の資格は勅令で定められた点が特筆されます。これは、選挙法が国民全体に影響を与える一方、貴族院令は特定階級に限定されたためとされています。起草は主に金子堅太郎が行い、井上毅の意見も反映されたとされます。イギリスの貴族院制度を参考にしつつも、伯子男爵の互選制度や、皇族・公侯爵以外の議員への歳費支給など、独自の制度も取り入れています。イタリアやドイツの制度も参考にしながら、独自の貴族院制度が構築されました。なお、貴族院令の改正には貴族院の議決が必要であり、政府の意向通りに容易に改正できない仕組みとなっていた点が、貴族院の独立性を高める要因の一つとなりました。

貴族院議員の類型

貴族院議員は、皇族議員、華族議員、勅任議員の3類型に大別されました。憲法で定められた3類型を本令で具体的に規定しており、これらの類型を排除したり、新たな類型を追加することはできませんでした。

皇族議員: 成年に達した皇族男子は終身議員となりました。皇族の成人年齢は、皇太子・皇太孫が満18歳、その他の皇族が満20歳と、一般国民とは異なっていました。
華族議員: 爵位を持つ華族が議員となることができ、公侯爵と伯子男爵で扱いが異なりました。公侯爵は満25歳（1925年改正後は満30歳）で終身議員、伯子男爵は満25歳（同満30歳）で互選による7年任期の議員となりました。伯子男爵議員の数は制限されており、爵位間の不均衡を是正するため、随時変更されました。この互選制度は、イギリスの貴族院制度には見られないものでした。
* 勅任議員: 皇族・華族以外の者で、天皇の任命により議員となることができました。勅選議員（国家功労者・学識者、満30歳以上、終身）、多額納税者議員（高額納税者間の互選、7年任期）、帝国学士院会員議員（1925年改正で追加、互選、7年任期）などが含まれます。朝鮮・台湾勅選議員も存在しましたが、敗戦により廃止されました。

貴族院の任務と権限

貴族院は、衆議院と同様に法律や予算の議決権を持ちましたが、天皇の諮詢に応じ、華族の特権に関する事項を決議する独自の任務も担っていました。ただし、この決議に法的拘束力はありませんでした。また、貴族院議員の選挙・資格に関する訴訟手続きは、貴族院自身で定め、天皇の裁可を受ける仕組みでした。

議員の身分と処遇

貴族院議員が禁錮以上の刑に処せられた場合や破産宣告を受けた場合、また貴族院内部の懲罰により除名された場合は、勅命または天皇の裁可によって除名されました。除名された議員は、勅許なくして再度議員となることができませんでした。議長・副議長は貴族院議員の中から7年の任期で勅任されました。

議院法との関係

貴族院令に規定がない事項については、議院法が適用されました。貴族院令は貴族院議員の資格や議院法の例外を定める特別法であり、その他の事項は議院法に従うという規定でした。

廃止

貴族院令は、日本国憲法の施行と貴族院の廃止、参議院の設立に伴い、1947年5月3日に廃止されました。この貴族院令は、明治から昭和にかけての日本の政治システムを理解する上で重要な資料です。

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