貴田みどり

貴田みどりは、日本の女優でありダンサーです。1988年5月に神奈川県で生まれました。亜細亜大学国際関係学部を卒業しており、聴覚障害者（ろう者）としても知られています。その活動は多岐にわたり、芸術表現のみならず、聴覚障害への理解促進にも貢献しています。

彼女の聴力喪失は、生後間もない時期に受けた心臓手術の後遺症に端を発します。これにより片耳の聴力を失い、その後、18歳で完全に失聴するに至りました。しかし、聞こえが不自由であっても音楽やリズムを楽しむ家族の願いと、幼い頃から身体を動かすことが大好きだった自身の性向が合わさり、3歳からクラシック・バレエを始めます。この経験は、後に女優やダンサーとして活動する上での礎となりました。バレエに加え、成長と共にジャズダンスやヒップホップなど、幅広いジャンルのダンスを習得していきます。

中学2年生の時、手話によるパフォーマンスを行うサークル「ひよこっち」のライブを観たことが、貴田の手話との出会いとなります。ろう者が手話で楽しそうにコミュニケーションを取る姿に感銘を受け、自身もサークルへの参加を決意。サークル内での共通語である手話は、ろう学校に通う友人との交流を通して自然と身についていきました。手話を習得したことは、彼女にとって新たな世界の扉を開く鍵となりました。サークルの仲間と共に、タイ、中国、スウェーデン、フィンランドなど、海外のろう者との国際交流も経験し、視野を広げていきました。

下北沢成徳高等学校在学中、特に15歳頃から聴力が次第に低下したことで、手話の必要性を強く認識し、手話学習に一層真剣に取り組むようになりました。高校2年生の2005年には、全日本ろうあ連盟主催の「第22回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出場。ろう者として経験した学生生活での困難を乗り越えた道のりや、ろう者と聴者の間に立つ「架け橋」になりたいという自身の夢を手話で熱弁し、見事2位を受賞します。また、17歳の時には、手話芸術団体サインアートプロジェクト・アジアンによるミュージカル『Call Me Hero!』に、プロジェクト代表である大橋弘枝の学生時代役として出演。この舞台での経験を通じて、演技の道へと強い関心を持つようになります。

亜細亜大学国際関係学部へ進学後、約5ヶ月間のアメリカ留学を経験。帰国後の2009年、全日本ろうあ連盟結成60周年記念映画『ゆずり葉-君もまた次のきみへ-』のオーディションの話が舞い込みます。これが自身初のオーディションでしたが、見事に合格を果たし、映画デビューを飾ります。この作品では、日本で初めてろう者として薬剤師となった早瀨久美をモデルとした役を演じ、その演技はモデルとなった早瀨本人からも高く評価されました。この映画への出演が、それまで一般企業への就職も視野に入れていた貴田に、女優という職業を強く意識させる転機となり、以降、女優を志すようになります。

大学卒業後、貴田みどりは本格的に女優としての活動を開始します。多数の舞台作品に出演する傍ら、テレビドラマや情報・教育番組など、映像作品でも存在感を示します。NHK総合のスペシャルドラマ『心の糸』（2010年）では林加奈役を演じました。また、NHK Eテレの『みんなの手話』には講師アシスタントとしてレギュラー出演し、手話の普及に貢献。さらに、2016年のリオデジャネイロパラリンピックでは、NHKによる聴覚障害者向けユニバーサル放送において、手話キャスターを務め、多くの視聴者に競技の熱気を伝えました。この他にも、『ろうを生きる 難聴を生きる』（NHK-Eテレ）でのインタビュアーや、BS朝日、放送大学の番組にも出演しています。

芸術活動に加え、聴覚障害に関する社会的な活動にも積極的に取り組んでいます。全国各地での講演やワークショップを通じて、聴覚障害への理解促進や、多様なコミュニケーション手段の重要性を伝えています。また、全国の高校生が手話による表現力を競い合う「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」では審査員を務めるなど、若い世代への支援や啓発にも力を注ぎます。

貴田みどりは、親しみやすく明るい笑顔が印象的で、多くの人々に慕われています。女優としては、役柄に合わせた衣装を体型に美しく着こなすファッションセンスも評価されており、内面と外面の両面から魅力的な表現者として活躍しています。

女優、ダンサー、そして手話によるコミュニケーターとして、貴田みどりは自身の経験を力に変え、多方面で活躍を続けています。彼女の活動は、芸術表現の可能性を広げると同時に、聴覚障害を持つ人々に対する社会の理解を深める上でも大きな意義を持っています。

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