貴腐

貴腐とは

貴腐（きふ）とは、特定の種類のブドウが ボトリティス・シネレア という菌に感染することで、ブドウの糖度と香りが高まる現象を指します。この現象によって生まれたブドウを「貴腐ブドウ」と呼び、それを用いて造られる甘口ワインが「貴腐ワイン」として珍重されています。

貴腐果ができるまで

ボトリティス菌は世界中に広く分布しており、多くの植物にとって病原菌となります。通常、この菌による感染は「灰色かび病」と呼ばれ、ブドウ栽培においても大きな被害をもたらします。

しかし、特定の白ワイン用品種（主に セミヨン や リースリング など）の成熟した果実が、ある特定の条件下でボトリティス菌に感染すると、良い影響をもたらすことがあります。感染した菌がブドウの果皮を変化させ、水分を蒸発させることで、ブドウは干しブドウのようにしなびますが、内部の果汁は糖度を増し、独特の香り（貴腐香）を帯びるようになります。

この状態のブドウが「貴腐果」または「貴腐ブドウ」と呼ばれます。貴腐果は、外見こそカビに覆われていますが、内部は糖度が高く、独特の風味を持つことから、高級な甘口ワインの原料として利用されます。

貴腐ワインの歴史

貴腐ワインの起源は偶然の産物でした。17世紀、ハンガリーのトカイ地方で、収穫が遅れたブドウがボトリティス菌に感染し、それが貴腐ワインの始まりになったと言われています。また、ドイツの シュロス・ヨハネスブルク でも、収穫許可の遅れから偶然に貴腐ワインが誕生しました。

貴腐ワインはその希少性と独特な風味から、古くから多くの人々を魅了してきました。フランスのルイ14世はトカイ産の貴腐ワインを「ワインの王にして王のワイン」と絶賛し、オーストリアのマリア・テレジアもその黄金色に魅せられたという逸話が残っています。

日本では、1975年にサントリーが山梨県のワイナリーで貴腐ワインの生産に成功して以降、長野県や北海道などでも貴腐ワインが造られるようになりました。

貴腐ワインを楽しむ

貴腐ワインは、フォアグラなどの高級食材との相性が良いことで知られています。また、デザートワインや食前酒としても楽しまれ、その甘美な味わいは特別なひとときを演出します。

貴腐ワインは、その製法の難しさから生産量が限られており、高価なワインとして知られています。しかし、その独特の風味と歴史的背景を知ることで、より深くその魅力を感じることができるでしょう。

貴腐ワインの別名

貴腐はその製法から、様々な別名を持っています。

ドイツ語: エーデルフォイレ (Edelfäule) - 「高貴なる腐敗」
ハンガリー語: ネメシ ロトゥハダーシュ(nemesrothadás) - 「高貴なる腐敗」
フランス語: プリテュール ノブル (pourriture noble) - 「高貴なる腐敗」

これらの言葉は、貴腐ワインが持つ特別な価値と、その製法が偶然の産物であることを示唆しています。

関連項目

ソーテルヌ（フランス）
トカイワイン（ハンガリー）
シャトー・ディケム

これらの地域やワインは、貴腐ワインの世界において特に重要な存在です。

もう一度検索